治癒師と魔剣・本文

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DC-02-04:声と恐慌

 わかりましたと、ケーナは折れる。生き残った脱走兵たちは残らず縛り上げられ、地面に座らされている。輸送しようにも、馬車は負傷した神殿騎士たちで満員だ。脱走兵たちは歩かせるしかない。しかし、歩けないほどの負傷者もいる。 ファイラスと神殿騎士た...
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DC-02-03:躊躇なき一撃

 動揺したのは騎士ばかりではない。ファイラスもまた、不意に高まった魔力の濃度にあてられて、集中を乱されていた。そして立ち直ったのは騎士の方が早かった。大剣を拾い上げると、そのままファイラスを横|薙《な》ぎにしようとする。「!?」 大剣の刃が...
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DC-02-02:森の中での戦い

 たちまちの内に木々に囲まれた一本道での撃剣が始まる。馬車がすれ違える程度の道幅で、逃げ道がない。弓を持つ脱走兵は数名程度だったが、それでも被害は少なくない。兵士たちはよく統率されていた。「こちらも行くぞ!」 騎士が大剣を打ち下ろしてくる。...
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DC-02-01:脱走兵との遭遇戦

 その翌日、ファイラスたちは早々に出発した。夜間には幸いにして襲撃はなかった。だが、神殿騎士たちの疲労やストレスは、初戦でもはやピークを迎えていた。この先どんな障害が待ち受けているのかと想像すれば、その状態もやむを得ない。ファイラスは出現し...
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DC-01-05:試作品五十五号

 薄暮の頃とは打って変わって、穏やかな晩夏の夜だった。神殿騎士たちは隊ごとに集まり、焚き火を囲んでいる。その顔には疲労と緊張がありありと浮かび、とても休めているようには見えなかった。あれだけの死セル兵士たちを見せつけられたのだ、致し方ない。...
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DC-01-04:白骨剣士との戦い

 なおも群れてくる死セル兵士たち。それぞれの戦闘力はたいしたことがない。だが、数が数だ。一人で五体、あるいは六体との同時戦闘を強いられる。しかも相手は力加減を知らない。一撃でも食らえば致命傷だ。そのうえ、倒しても倒しても新手が加わってくる。...
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DC-01-03:罠の渦中、腐肉の兵士

 霧の中に現れたのは無数の死体だった。無論、ただの|亡骸《なきがら》ではない。丘の麓に転がっていた夥しい数の兵士の|骸《むくろ》だ。それらがまるで意志を持っているかのように剣や槍を手にして、ゆっくりとファイラスたちに向ってきていた。「総数不...
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DC-01-02:霧は濃く、深く、迫る

 丘の上の霧は、まだそれでも少しは薄かった。しかしその麓はすっかり白く覆われていて、転がっているはずの|夥《おびただ》しい数の死体も全く見えなくなっていた。「それにしてもディケンズ辺境伯ともあろう方が、いきなり独立宣言なんて」 ケーナは釈然...
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DC-01-01:沈黙する屍たち

 小高い丘の麓には、無数の屍が転がっていた。どれも激しく傷ついており、夏の陽気に|炙《あぶ》られて腐敗もひどく進んでいた。残ったわずかばかりの下草はどす黒く|萎《しな》びており、死体を好むキノコがぶつぶつと身を|掲《かか》げていた。 うっす...
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DC-00-00:滅んだ世界の欠片より

 白髪、そして青い瞳の青年が、バルコニーで星空を見上げている。八月だというのに酷く冷たい夜風が、青年の髪を仄かに揺らしていく。「滅んだ世界の|欠片《カケラ》、か」 青年は月に視線を送り、今度は黒々と広がる南の山脈を見た。あの山の向こうでは今...
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