2022年2月22日。可能な限り「2」を詰め込んだ猫フェチのための日。
そんな平和な日にも、俺はこうして駅を行く。つい五時間前に、三日ぶりに家に帰ったと思ったら、午前八時には電話がかかってきた。呼び出し理由は「先月納品したシステムがなんか変になった」からだ。そういうわけで俺は今、通勤ラッシュに潜り込んで札幌駅の中心部分を突っ切ろうとしているわけだ。
ああ、そうそう。そんな俺にも妻がいる。イマジナリーじゃなくて。リアルな感じの。今日も心配する妻を置いて、会社のために旅立ったわけだ。体と心の頑丈さだけは常日頃、ギネスに載ってもいいと思っている。なんで俺に素晴らしく美人で仕事のできる妻がいるかって? それは俺にもわからない。人の出会いなんてそんなもんだろ?
濁流のような人のうねりを俺は巧みに渡っていく。企業戦士歴もまもなく十年になるのだ。このくらいできなければお話にならない。そんなわけで俺はすいすいと歩みを進めているのだが、ふと目の前を歩くスーツケースの男が意識に入ってきた。普段は他人など芋か南瓜だと思い込んでいる俺にとって、これはとても珍しいことだった。だが、スーツケースの男はどこからどう見てもただの出張中の外国人である。どこの国の人かは知らない。見た目ではわからんものだし。
そんなことをぼんやりと考えながら、俺はそのままその男を追い抜いた。
……のだが。
パッと視界が真っ白になった。
あれ? 眼鏡を落としたかな?
あれ? 一瞬チリっと痛みが走ったような気もしたんだけど。
それが俺の、この世の最後の記憶ということになったわけだ。
羽斯波累、ここに眠る。
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