CB-02-003: そいつらのクビを切れ!

カセドラル・ブラッド・本文

←previous

 俺が吠えたその直後、俺の頭の中にどこか飄々とした声が響いた。

『あー、もしもし? 高播磨たかはまですー』
「間に合ってる!」

 営業電話を連想した俺は、即座にそう言い切ったのだが、回線の切り方がわからない。ていうか、直接頭の中にかかってきてるのか、この電話。

『高播磨、こっちは今から体操するの。羽斯波が。変なタイミングで連絡しないで』
「黒咲も聞こえてるのか?」

 俺が聞くと、黒咲はムスっとした顔をした。

『敵に聞こえちゃうでしょ、黙って頭の中で考えればいいのよ』

 こんな通信、やったことがないのに酷い話だ。黒咲はどこからともなく拳銃を取り出した。グロックかな?

『で、何? この三人以外にも敵がいるの?』
『それなんですが、北耶摩っぽい反応があるんですよねぇ』
『ばっか、早く言いなさい、そういうことは』
『だから急いで連絡したじゃないですか』
『もっと早くよ』
『無茶ですよ……』

 黒咲は誰に対してもこういう対応をするんだな! 俺は妙に納得し、同時に少し安心した。

『まぁいいわ。北耶摩らしきものが到着するまで何分?』
『最長三十分』
『オーケー。羽斯波、一人一分で殺して』

 なんで!? それじゃ二十七分残るじゃん!?

『高播磨はバカだから、十分の一くらいにしてちょうどいいのよ』
『く、黒咲さぁん……』
『あなたはだいたいにして楽観的すぎるのよ。途中に餌でもない限り、あいつはまっすぐここに来るわ。おそらく、この三人の野良と、それを狩りに来たニューロのエージェントを狙ってね』

 ん? この三人ってナーヴの息がかかってるんじゃ?

 俺は黒咲を見る。黒咲は大袈裟にため息をつく。

『北耶摩にとってはどうでもいいのよ。一応枢機卿や教皇の顔を立てる動きはするけど、あいつは基本的に自由だし、誰もあいつを縛れない』
『そんな具合に超人類バイスを狩るから、ますます強くなる?』

 俺が訊くと、高播磨が「そーですそーです!」と営業マンっぽい相づちを打ってくる。正直言って、苦手だ。

『というわけだから、羽斯波。さっさとあの三人を挽肉ミンチにして』

 黒咲は拳銃をくるくると弄びながら、顎をあげて見下し目線を俺に送ってくる。なんていうS気質か。いっそ神々しいが、俺にはその手の趣味はない。残念だったな!

『聞こえてるわよ』

 黒咲は直ぐ側にいる三人の敵を、顎でしゃくった。

 剣出すの痛いからなぁ――思わず躊躇する俺の腰に激痛がはしる。何事かと思ったら、黒咲の長い足、そのつま先が俺の骨盤に直撃していたようだ。なんていう。これはパワハラどころではない。暴力行為バイオレンスだ。

 俺のうめき声が三人に聞きつけられたのがわかる。彼らは明らかに俺の方向を意識している。今の俺の位置から敵の姿は見えないが、そうだということになぜだか確信を持った。俺は黒咲をジト目で見てから、意を決して両手から剣を出すことをイメージした。

 ……これでいいんだっけ?

 と、思った瞬間。俺の手首の皮膚がブチブチと音を立てて切れ、中から剣が出現した。痛いとか痛くないとかいう次元の話ではない。皮膚が内側からざっくり切れて中から鋭くてぶっとくて分厚い刃が出てくるのだ。血もたくさん出る。俺は歯を食いしばってその痛みをやり過ごし、瓦礫を踏み越えて荒れた道路に足を踏み出した。三人の男女は俺を見て即座に戦闘態勢に入る。

「知らねぇ顔だが、超人類バイスだな!」

 男の一人が確認してくるが、俺は無視した。というより手が痛くてそれどころではない。しかもこの剣、かなり重たい。

『ほら、羽斯波。さっさとぶっ殺して。あなたはマイナス評価から始まってるんだから、目に見える成果を出して。早く』
『自己啓発の時間が必要だと思うんだけど』
『オフタイムにやって。あなたにオフなんてないけど』

 黒咲ィィィィィ!

 心のなかで憎悪のパワーを凝縮し、俺は手近な一人に切りかかった。拳銃を持った男である。男は手慣れた動きで銃口を上げ、俺の一撃をひらりとかわして、俺を飛び越しながら三発撃ち込んできた。

 あ、死んだわ、これ。

 俺は妙に冷静にそう感じた。右の肩甲骨、腰、そして左肩。熱い塊が俺の肉を裂き、骨を砕いた。だが、なんかこう、「5ダメージ受けた!」みたいな感触だ。俺のHPはまだまだ残っている、というか。

 俺は背中一面に流血しながら、両手の刃の重さを利用して振り返る。

「なんで!? この銃弾は……!」

 驚愕する男の腹が、俺の刃によって切り裂かれた。俺の中に力が満ちてくる、気がした。俺は更に一回転して、男を二度切る。大ダメージは与えたようだが、まだ倒せていない。止めを刺さなければ――と俺が切りかかりかけたところで、横殴りの一撃をもらって俺は地面を転がった。

「なんだ!?」
「へっへ、さすがに無事じゃぁすまねぇよな!」

 もう一人の男が瓦礫の上から俺を見下ろしている。

「でも俺の砲門乱立バズーカ・バラージを受けてまだ死んでない奴は初めてだぜ!」

 そりゃどうも、と言おうと思ったが、声が出ない。肺が潰れているのか。

『で、羽斯波。いつまで遊んでる?』

 遊んでねぇよ。勝てねぇよ、こんなん。

『あなたはまだ死んでいない。風穴が開いてるだけ。まだやれるでしょ。かすり傷よ』

 どこが!?

『それとも助けて欲しい? 一生奴隷契約することになるけど』

 それはイヤ。

 俺は俺の上にずらりと並んだバズーカのようなものを見上げて、少し唸る。

 プロメテウスを呼ぶか? いや、それはだめだ。このあとあのヒグマこと、北耶摩が控えてる。

『あのー、羽斯波さん。早く再生しないと納期に間に合いませんよ』

 納期ってなんだよ、ちくしょう。

 俺はこの高播磨という男とは絶対に相容れないと悟る。その時、男が怒鳴った。

「一斉射!」

 轟音。爆発。炎。

 だが、俺にはその回避コースが見えていた。もちろん生身だったら何十回かは死んでいただろうが、今の俺は死ぬ気がしない。チュートリアル。そうだ、チュートリアルだ、これ。新人研修という名のOJT。間違いない。ということは、ギリギリ死なない程度の難度のはずである。研修期間で新人がやめるのだけは、どんなブラック企業でも阻止したいと思うものだ。なぜなら採用コストがペイできないからだ。

「嘘だろ!」

 俺の目の前に男の顔がある。俺は爆炎にまぎれて男のそばまで移動していた。俺の左手の刃が男の胸に突き刺さる。また俺の中に力が流れ込んできたかのようだ。ズタボロになっていた身体が急速に再生していく……。どころか、見るも無残な形になってしまった服まで直っていっている。いったいぜんたいどういうメカニズムなんだ?

 俺は刃を思い切り払う。男の胴体が半ば切断される。が、男はまだ死なない。さっきの男もまだ死なないだろう。

超人類バイスの弱点は脳。首を切断しても死なないけど、アルファや身体で作った武器で脳みそを傷つければ死ぬわ』

 そうなんだ、なるほど。となれば男二人が未だ死なないのもわかる。

『それにまだその二人、再生能力あるからすぐ立ち直るわ。早くそいつらの脳みそを裏ごしして』

 裏ごしって、お前な……。

 思わず想像しちまったじゃないか。

 俺は身体を半回転させて、そいつの首を弾き飛ばす。首はコロコロと転がっていき、女の足元で止まった。

「舐めたことしてくれるんじゃないのさ!」

 女は信じ難い距離を跳躍し、バタフライナイフで俺の喉に向かって切りつけてきた。俺の頸動脈がざっくり切れる。痛いというより、吹き出す血液の圧力にびっくりする。が、その痛みや傷もすぐになくなった。女は信じられないという表情を見せる。瞬間、俺の右手の刃が女の首を切り飛ばした。俺が一番びっくりした。この俺が、敵とはいえ女性を躊躇なく斬れたことにだ。

 三人の男女はそれぞれに見るも無残な姿で動けなくなっていた。こうなってしまうととてもやりにくい。黒咲はさっきからずっと「とどめを刺せ」とうるさかったが。

『ちょっと、早くしないと再生されるわよ』
『後味悪いことしたくないんだけど。死体蹴りじゃん』
『そういうこと言っていると、あなたが死体蹴りされるわよ』

 その言葉の直後に、俺はまたしても背中に激痛を覚えた。結構効いた。振り返った先には、最初に斬り伏せた拳銃の男が立っていた。

「この野郎! ぶっ殺してやる!」

 ありきたりな台詞を口にして、男は拳銃を構えた。斬りかかるにはちょっと距離がありすぎる。しかし避けられる場所もない。どうする……?

「マジ!?」

 その男の持っていた拳銃が超巨大化して宙に浮かんだ。それも、三つに分裂して、だ。

「分子レベルに粉砕してやるぜ!」

 威勢の良い男の声とともに、その三つの銃口が同時に爆音を響かせた。

→next

コメント

タイトルとURLをコピーしました