CB-02-004: ロボゲーマー vs ガトリングマン

カセドラル・ブラッド・本文

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 人間の頭ほどもある弾頭が三つ、俺に迫ってくる。それぞれ音速は超えているはずだ。背中がうずく。回復しているからだと思いたい。

 迫る弾頭は、ご丁寧にも今の俺の場所へ同時に着弾するはずだ。俺の明晰な頭脳がそう分析する。

 ということは、ここから離れればいいというわけだな?

 考えると同時に、俺の身体は動いている。男から距離をとってはだめだ。俺の戦闘最適距離は近距離。距離をとったら次の攻撃を許してしまう。これはロボットモノゲーマーとしての本能的な判断だ。地面を蹴るのとほぼ同時に弾頭が炸裂する。成形炸薬弾か。だが、今はその爆風は俺にとって追い風。男のもとへと一気に跳躍することに成功する。男は両手を広げて前に突き出してくる。

「舐めんなよ!」

 ――何をしてくる!?

 俺は警戒する。しかし、その時には両手から生えた剣を振りかぶっている。男の右掌から、血飛沫しぶきとともに五本の銃身が生えてくる。

 ガトリングか!

 食らっても死なない気はするが、ガトリングの制止力ストッピングパワーは凄まじいものがあると俺は(ゲームで)知っている。刃を振りかぶった勢いをそのままに、俺はバックフリップを決めた。やったことはなかったが、「決められたら良いな」くらいの気持ちでやった。

 俺の身体を数発の弾丸がかすめるが、命中は出ない。狙いエイムがしょぼいぜ!

 着地と同時に地面を蹴ろうとしたが、その瞬間を狙われた。砲門乱立バズーカ・バラージというアレによるアレだ。直撃こそしなかったが、四方八方からの爆風に襲われて視界ゼロ。そこにガトリングの弾がレーザーのように突き刺さってくる。

『羽斯波、遊んでる場合じゃないわよ』

 遊んでないって! ていうか身動き取れない!

『だからさっきとどめを刺せって言ったでしょ。言うこと聞かなかった結果のインシデントなんだから、自分の責任でなんとかしなさい』

 うわ、ブラック上司の発言きたこれ! 部下の失敗は上司の責任、じゃないのか! ……そんな理想の上司見たことがないけど。

 いくらかは回避できたが、今度はバズーカは食らう、ガトリングは食らう、で、たちまち俺は挽肉ミンチになりかける。

「いい加減くたばりやがれぇ!」

 ガトリングが俺の頭部に集中する。俺は両手の刃で頭部だけを守る。この刃、防御力が凄まじくて、ガトリングを数十発くらったところで傷もついていない。そして着弾の衝撃は凄まじいものがあったのだが、これまたそこまでダメージはこない。生身だったら今頃とっくに肉片だ。

 そうか、これを盾にして突進すればいいのか。

 俺は左手の刃を顔の前に出して、土煙の中を突き進む。バズーカなんちゃらの攻撃が追いかけてくるが、あれは発射間隔が結構ある。タイミングさえ読めれば回避は容易。いやー、ロボゲーやっといてよかったな、俺。

 弾丸を弾き返しながら、俺は前に進……もうとしたが、突然転倒して地面を派手に転がった。すぐそばにガトリングを構えた男。男は俺を見下ろしながら、勝利の笑みを浮かべた。どうやら俺は、女に右のアキレス腱を切られたらしい。完全に油断した。

 そして今、ガトリングの銃口が俺を睥睨へいげいしている。

「手間取らせやがって!」

 男は俺にとどめを刺そうと束ねられた銃身を回転させる。足の再生は……まだか。でも――。

 俺は両手の力で跳ね起きて、そのまま空中で回転する。眼下に女が見える。着地点は目論見もくろみ通り、女のすぐそば。切り払える距離!

 女は俺の行動についてきていない。頭上を通過したあたりでやっと顔を上げたくらいだ。

 俺は着地と同時に女の頭を両手の刃で叩き割った。ちょっと表現を躊躇ためらうような地獄絵図が広がる。

「うっ!?」

 女の身体はまるでガラス細工のように白くなり、砕けた。キラキラとした破片は、春の雪のように消えていく。それと同時に俺の中で何かのスイッチが入った。言うならば、という感じだ。切れたアキレス腱も何事もなかったかのように再生している。少し足に力を入れるだけでまるで漫画のように動ける。ガトリングの追尾をかわし、バズーカの爆風すら利用して移動することができる。

 超人類バイス一人の血の力でこんなに力が?

 こりゃ、超人類バイス超人類バイスを狩るわけだ――そう理解できた。文字通り世界が変わるのだ。しかし、となれば、ヒグマ野郎・北耶摩キタヤマはいったいどれほどの力を持っているのだろうか。想像して薄ら寒くなる。

 俺は近くにいるバズーカ男をターゲットに定めた。だが、まさにその瞬間に、男の頭が消し飛んだ。ガトリングで撃たれたのだと理解するまでに、一秒か二秒ばかりの時間を取られた。

『あぁ、羽斯波さん~! だめじゃないですかぁ!』

 高播磨タカハマの声が頭に響く。イラっとする。本能が拒絶している。しかし、そんな俺のステータス異常などお構いなしに、高播磨は続ける。

『さっさと始末しないから、ガトリングマンがパワーアップしちゃったじゃないですかぁ』

 こいつら仲間じゃなかったのかよ!

 俺の叫びに対し、黒咲は「フッ」という嘲笑を、高播磨の「なに言ってんの、いまさら」というニュアンスのため息を送ってきた。

『どうするの、羽斯波』

 どうするったって、倒さなきゃならないでしょ。

 俺はそう言って、ガトリング男に向かって突進する。が、それは今までと比較にならない熾烈な弾幕で阻まれる。おそらくジャンプしても叩き落とされる。走って逃げようにも遮蔽物しゃへいぶつがほとんどない。これはいわゆるひとつのハメられパターン。そうこうしているうちに、徐々に命中弾が出始める。何ミリの弾丸だか知らないが、かなりのダメージだ。普通の人間だったら一発で手足の一つくらいはちぎれているはずだ、多分。

 状況は一秒ごとに悪化中。まさに大炎上プロジェクトだ。トラブルがトラブルを呼び、トラブル対処をまずったおかげで更にトラブルは深刻化し、そのうち報告も追いつかなくなって誰も事態を把握できなくなり、さらなるトラブルを呼ぶ……。

 この銃弾の一発一発がインシデントだ。

『あなた、逃げてるだけ? 手助けする?』

 そうしてもらえると助かる!

『ごめんなさい、言ってみただけ。じゃ、がんばって』

 はぁ!?

 いや、もしかすると北耶摩が射程に入ったのかもしれないし。いきなり腹を立てるのはやめておこう。炎上プロジェクトを切り抜ける第一のコツは、感情的にならないことだ。あるいは感情を殺すこと。感情の負荷は確実に心理的負担になる。だからここは一つ冷静に……。

 俺の頬を銃弾がかすめる。痛いというより熱い。ものすごく熱い。眼鏡が無事だったのは幸いだった。これがないと、力が出ない気がする。

 ガトリングマンまでの距離は十メートル。今の俺なら一秒あれば余裕で到着する。いや、0.5秒でいいかもしれない。だが、弾幕が激しすぎて全く近寄れない。

「弾切れしないのか、あれ」

 思わず呟いてみたところで意外な反応が返ってきた。高播磨である。

『あの弾丸一発一発がアルファのようなものなので、銃撃のたびに力が減衰していくはずですよ』

 なんだって。それを早く言え!

 俺は心のなかで精一杯の毒を込めて応じる。感情的にはなってない。ただ毒を込めただけだ。

「しかし、そうだとすると、焦って仕掛けなくても良いのか」

 弾数が無限ではないとわかったのなら、こっちはそれが尽きるのを待てばいい。あわよくば仕掛ける。

『羽斯波、そうはいかない事情よ』

 ヒグマ男?

 俺の問いに、黒咲は「イエス」と返してくる。それはまずい。俺は頭を守りながら一気に距離を詰める。必然的に弾丸の密度と精度が上がってくる。

『高播磨、羽斯波を支援して』
『ええ、聞いてないですよ』
『黙って。あなたの意見こそ聞いてない』

 黒咲と高播磨の会話。いったい何だ、支援って。

『仕方ないですねぇ。いいですか、今からそいつの頭の中にノイズを発生させます。思考ノイズなので、一瞬判断が止まるはず。一瞬ですけど』
『いいから早くやって、高播磨。羽斯波が死んだら、仕方ないから私がなんとかする。気遣い無用よ』

 いや、気遣いしてよ。

 弾雨にやられて辟易している俺氏。しかし、傷がバシバシできてはヒュンヒュン治る。腕や足がちぎれ飛んだのも一回や二回ではないのに、今はこうしてちゃんと全身のパーツが揃っている。

「!」

 ガトリングマンの放つ弾丸の暴風が弱まった。今こそダッシュ斬りのチャンス。地面を蹴る。ガトリングマンが下げていた銃身を上げ始める。銃身の回転が始まる。その瞬間に俺は地面を蹴った。ガトリングマンの頭上を跳び超える。人間、水平方向の動きには強いが、上下の動きには弱い。追従能力が僅かなれども劣る。

 案の定、ガトリングマンの銃撃は俺には当たらない。俺は着地するなり、位置を確認することもなく時計回りに回りながら男の脇をすり抜けた。

「がっ!?」

 男の胴体が分断される。しかしすぐに上の方から下半身が発生する。そこをすかさずもう一撃して再び切り離し、今度はこめかみあたりに刃をヒットさせようと大振りする。男はガトリングガンで止めようと試みたが、俺の両手の刃は思いのほか鋭かった。

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