この「読書感想文」企画を始めた最大の動機は、実はこの作品の存在なんです。というわけで、本企画第一号は「ひとりぼっちのソユーズ」、正確には上巻。本企画では上巻のみ扱います。というのは、下巻まで言及してしまうと、どうしてもネタバレが多々含まれてしまうためです。
ネタバレなしの感想文ってとても難しいんですけどね。しかしどうしてもこう、多くの人にこの作品の魅力・素晴らしさを伝えたいという気持ちがあって、その結果としてこのページがあるわけです。ので、がんばってみたいと。語彙力崩壊しないようになんとか頑張る。今時点頭の中がぐちゃぐちゃなんですが、そこはなんとか。
本作品「ひとりぼっちのソユーズ」は、七瀬夏扉さんによるカクヨム発で紆余曲折あって、今は主婦の友社さんから出されている上下巻の作品です。
2021年もまもなく終わりますが、今年一番泣きました。全ての体験を通じて一番泣いた。最初っから突き刺さる、何気ない言葉が心を揺らす、ひたむきさ(或いは一生懸命さ)、想い、情熱、願い、そういうものが波のように絶え間なく絶え間なく絶え間なく押し寄せてくる。一気読みしようという目論見があえなく崩れ去ってしまうほどに、心の最深部を大きく揺さぶってくる。そういう物語です。
私も四十半ばなので涙腺が脆くなってる説はもちろん捨てきれません。が、もう泣くしかないでしょ、これ。絶対泣くとか、泣けとか、そういうのじゃない。抑えきれないんですよ。なんだこれ、なんだこれと。一息つく暇もない。寄せて返す波に曝される石ころように、じわじわじわじわ涙腺ダメージを受け続けて、決壊。あるいは累積ダメージがいい感じに高まったところでクリティカルヒットを食らって昏倒。そんな感じで、もう防御しようがない。心が動かされてしまうのを防ぎようがない。抑えきれない、そういうほかにない。
念の為に言っておきます。感覚合わない人は当然いると思うので、普遍的に「泣ける」とか「泣けない人は云々」などという野暮なことは言いませんけど、正直本作を「良い」と思えない人とは「私は」話が合わないので距離を置きたいです。ええ、感覚は人それぞれですから、私はそれぞれの感性を尊重します。「ですが」というところです。あしからず……。
さて話を戻しまして。
本作品との出会いは「カクヨム(ななせさんのページ)」が最初でした。なお、現在、カクヨムでは本作の再書籍化に伴って取り下げられています。私はこの「ひとりぼっちのソユーズ」というタイトルに一目惚れしたのを覚えています。私、宇宙スキーですから、「ソユーズ」が何であるかはもちろん知っていました。だからこれは「あ、宇宙!」と、私にはすぐにわかったわけです。いや、ソユーズは有名なのでそこまで特別な知識でもなんでもないですけど、とにかく「ひとりぼっち」の「ソユーズ」という組み合わせに、もうその時点で感動していました。そしてこの「ひとりぼっち」っていうのが作中の超重要なキーワードになっていて、後半になる頃にはこの「ひとりぼっち」を見かけただけで涙するようになりました。なんていう切ない、なんていう重たい、なんていう祈りに満ちた言葉だろうかと、そんな風に私は思いました。ネタバレしないで言うとなると、「ひとりぼっち」についてはこれが限界。とにかく「ひとりぼっち」。もうつらい。ここで書いてるだけでも心が振動しすぎてつらい。「ひとりぼっち」は寂しいよね……。
物語の根幹部分にあるのは、主人公である「僕=スプートニク」と、ヒロインである「ソユーズ」のやり取り。夢、想い、希望、願い、祈り。そういう優しくも形のない――ともすれば頼りないものにすがり、そして時として包まれながら「物語=主人公の時間」が進んでいきます。物語は徹頭徹尾とても柔らかくて優しくて、だからこそとてつもなく切ない。切ない。胸の奥が苦しくなるくらいに切ない。本作は読者に向けて「切ないだろ!」とは絶対に言わない。「ここ感動シーンですよ!」なんて絶対に言わない。だからこの心が動かされる現象というのは、つまり主人公に同期(≒感情移入)した結果なんだと思います。のめり込んでしまうというか。
本作の主人公の「前に進み続ける動機・原動力」とか、(多かれ少なかれ)私の人生みたいなものに重なってくるところもすごくあって、余計に突き刺さる。主人公がいいんです、主人公が。濃くもなく、薄くもない、ちょうどいい濃度なんですね。しかもページを捲るごとにこの主人公がじわじわと成長していって、それがまたリアルというか。作者・ななせさんの筆致の凄さというか。たぶんこれ、読者が年齢重ねるごとに刺さる箇所が増えてくるんじゃないかなぁ。私も(改稿はあったとはいえ)最初「カクヨム」で読んだ時、二回目・最初の書籍化で読んだ時、そして今の版で読んだ時の三回、期間を置いて読んでるんですが、感動度合いがづん、づん、と上がっていっているのを感じました。今日も娘氏(1歳)抱っこで寝かせながら読んでめっちゃ泣いてました。感情の激震を抑えるのは無理でした。
ああ、もちろん、ヒロインたちも素晴らしく魅力的です。主人公の濃度を適度に抑えた分、ヒロインたちが色濃く描かれていて……だからこそ、ものすごく、ものすごく切ない。「どうして思い通りにならないんだ!」「なんでこうも残酷なんだ!」って主人公とヒロインたちの気持ちがぶわーっと伝わってきてしまって。冷静に考えると「なんだこの鬼作者」なんですが、それを完全に忘れさせられてしまう所がすごい。すごいなぁ。
そしてヒロインは「ソユーズ」――ユーリヤっていう日本人とロシア人のハーフの女性で主人公「スプートニク」の幼馴染なんですが、本当にいい。実にいい。タイトルの「ひとりぼっちのソユーズ」の意味もちゃんと書かれています。もうね、悲しい。涙出てくる。その胸がギュッとするような重さが、どんどん増していくんです。ここまで切なさ全開の物語、なかなか出会えない。もうこのソユーズ=ユーリヤのことだけで1万文字は書ける。書けるけど、ネタバレにしかならないので自重する。もうね、ほんと最初っから最後まで、ユーリヤに何度泣かされたか判然としない。人前で読めないのは間違いない。というより、一人で静かなところでじっくり読んでほしいと思う。一文一文噛み締めながら。
そして後半にかけて、現代から始まった物語がだんだんと(少し)未来の話になってくるんだけど、そこで出てくる「ソーネチカ」という少女が、これがまたいい。可愛いとか美人とかそういう話じゃなくて、「人間」としてリアルというか、リアルにして魅力的というか。ソーネチカについては、(私の力量では)何を書いてももう最初から最後までネタバレになっちゃうのでさらっとですみません。ソーネチカにも「僕」目線で感情移入しちゃって大変でした。なんでこうも、運命?のようなものは。
あのガガーリンが「宇宙に神様はいなかった」と言い、ユーリヤも「宇宙にも神様なんていない」と言う。そして主人公の後輩宇宙飛行士アリョーシャは「神様を探すために宇宙に来た」と言う。ユーリヤが宇宙に夢見たもの、ソーネチカが地球に夢見たもの、その架け橋となる主人公・スプートニクの思い。ネタバレしないためにはもうここらへんで止めなければなりませんが、終始一貫、切なさ全開の物語です。
是非。一人でも多くの人に届けばいいなと。「ひとりぼっちのソユーズ」、名作です。
本当にいい物語です。
一年を締めくくるのに、本当に相応しい作品でした。
この物語とこの感動は、たぶん一生忘れない。
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