「死者殺しのメメント・モリア」- 読書感想文

読書感想文

さて、2021年9月に発売された本作「死者殺しメメント・モリア」です。とっくにKindleで購入していたんですがややしばらく色々あって読めずにおりました。主に私の目がおかしくて、Kindleで買ってしまったこともあって、なかなか文字が読めなく。紙媒体にしときゃよかった。

という言い訳はここまでにしておいて。

さて、まぁ、この作者・夢見里ゆめみしりゅうさん。ご存知の方はご存知だと思いますが、この方、使用可能語彙が半端なく多い。語彙で言えば、作家界隈でもトップクラスじゃないかというくらいの語彙量です(※個人の感想です)

で、これは単語だけの話じゃなくて、言い回し、ひいては文脈まで含めての語彙量の話。そして、この甚大な数の語彙を使いこなしている。これが語彙。スノッブな感じの語彙使いでは断じてなくて、文章・文脈における必然として使っているように思います。多分ですが、そこに出てくる単語が初見であったとしても、文脈を読める人であれば(物語を読むのに慣れているっていうこと)、難なく読めるのではないかと、そんなふうに思います。というか、アレだけの表現力を過不足なくぶんまわすんだから、どんだけだよと。一言でいうと「文章力パネェ」です。Amazonのレビューでは言い回しが云々なんていうのがあったりしましたが、それはね、そういう文章を知らないからなんだよっていう。確かに情報だけ伝わりゃいいやーみたいな文章しか読んでない人には難しいかもしれない。だが、それが良い。難しい=悪ではないですし、そもそもこの小説の文章は難しくはないと思いますし。安部公房やドストエフスキーでも読んでこい……なんてことは言いませんが、公の場で「難しいからこの作品はダメ」とか言い立てるのは、せめてあのレベルのアレから言って欲しいとは思う(笑)

閑話休題して、この「文章力」。文章力というと、文章の「形」だと思いこむ向きもあると思いますが、そうじゃなく。「物語の構成力」の多くを為す要素だと私は思っています。

しかしながら、本作の文章が美しいというのはもはや話の前提になるだろうというくらいに美しいので、この話はここまで(笑) おそらく多くの人が言及していると思うので、いまさら私がダラダラ言う必要もない。

で、可能な限りネタバレ回避してみますが、それも嫌なら今すぐ書いなさい。はい。ポチっと。

この物語「死者殺しのメメント・モリア」は、時を超え、場所を超えた「四つの短編」で構成されています。そして多分これ、最終的には四部構成の構想なんじゃないかしらっていうのは、最後まで読んだ人なら「だよね」ってなるはず。なのでなんとしても4巻(というか最終巻)までは出て欲しい。

ともかく本作は四話構成なわけですが、読んでて感じたのは「ボリューム感」。紙媒体で読んだらまた違うのかもしれませんが、とにかくボリュームがある。何しろ流れるような文章なものですから、読んでて詰まることも読み進みにくいこともないんですが、とにかく画面からのがすごい。登場人物はおそらく最小の最小まで絞っている構成(主人公パーティは2人です。なので(ちょっと歪んだバロックな)バディもの、と言っていいと思います)で、それだけに登場人物の全ての心情心理にまでスポットライトがあたっているように思いました。

主人公モリアの描写。もちろんいい。具体的な描写は実際に読んでもらったほうが1000倍良いと思いますが、簡単に言うと「キャラクターづくり」に対するこだわりが感じられました。ペルソナ作りとも言うのかな、こういうの。いや、思いつかないよ、これ。うん。

そしてのシアン。こいつね、こいつがいい。性格も行動原理もワケワカラン上に皮肉屋で。文字通り最強。文字通り人外。そのくせ妙に可愛いところがあったり。このへんも筆致の妙ですねぇ。ただのきれいな顔した最強の兄ちゃんってな造形では断じてない。うーん、唸る。あんまり書くとネタバレになるのでこのへんで。

どんな物語でもそうですが、決して外せないのは「敵」ですね。「敵」。本作、四話構成それぞれに「敵」がいて、「大ボス」がいる。そしてこの「大ボス」も、この物語全体(2巻以降の構成になるでしょう)では「中ボス」でしかないはず。この辺は基本に忠実。もちろん良い意味で。この「敵」の見せ方がうまいんだな~。(「大ボス」を除き!)「敵」は基本的に「愛」でできているんですね、これが。これもまた本作のテーマであったりするわけですが(と私は思っている)、その見せ方がなぁ、「敵」で「悪いこと(殺人とか)をしている」とわかっているんだけど、読者の視点(≒主人公・モリアの視点)では「悪」と言い切れない。読者としてはそこに感情を揺らされるわけです。「悪だけど、悪じゃないわけじゃ断じてないんだけど、でもそう言い切ってしまえない」みたいな。ところが物語が進んでいくと「こいつ絶対に悪!」と言い切れる存在が現れます。蓄積された読者のモヤモヤ感がここでドバっと。「やっておしまいなさい!」と読者(というか私)の気分は水戸黄門。まさにカタルシス!! でした。

という具合にとにかく「敵」の扱いが上手いなぁと。主人公の一方的な語りや想いで物語を進めるんじゃなくて、敵を通じて主人公を見る(見せる)というか。その結果として、物語がすすむというか。「物語」のための「敵」ではなくて、「敵」がいることによる「物語」というか。まぁ、なんか当たり前のこと言っている気がしなくもないですが、そんな感じ。なんかうまく表現できないんですが、これはつまりそのくらいよく練り込まれているということじゃないかなと思ったりします。

そしてまた、終始「死の色=青」がクローズアップされるところ、ところどころ織り込まれる花言葉、そして主人公・モリアの。全体にセピアあるいはグレイな色合いの世界に、そういったヴィヴィッドな色合いが差し込まれる。この辺の多次元的な描写は思わず真似したくなる。そんな感じ(?) 少なくとも一朝一夕で作れるような筆力ではないです。熟成された奥深さを強く感じます。

めっちゃネタバレしつつ語ってみたい欲はあるんですよ。ムズムズしてます、いま。でもここは自重。

これ、続きがめちゃめちゃ気になるので、ぜひにとも続刊していただきたいです。続刊のためには売上が必要なのですよね。俗な話。なので、皆さん購入しましょう、読みましょう。

ちなみに現在(2022/03/14時点)で、カクヨムにこんなのがありますので、要チェックです。

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