その声が、「おかお」という文字がキンキンと響き、私の脳の中で音の形象崩壊を起こす。
「こ、この子は、な、な、なな、何なの!」
「この子? ああ、そこにいるらしいヤツのことか」
男は私の腕を掴んでいる小さなものを指差した。が、少しその指先がずれている。
「ねえ、おかお、おかお!」
「因果律というヤツじゃないか」
「おかお、おかお、おかお!」
「よくわからんが」
「おかお! おかお! おかお!」
「自責の念とか罪滅ぼしとかいう皮を被ったエゴイズム――言い換えればお前そのものじゃないのか?」
「ねぇ、おかおをちょうだい!」
ばりっ。
「あなたのおかおをちょうだい!」
めりめりっ。
顔が熱い。皮も肉も筋肉も根こそぎ剥がされる。
激痛に私は泣き叫んだ。それすら表情筋がちぎれ飛んだせいで不可能になっていく。口も開けられない。目蓋はもぎ取られたから目を閉じることもできない。顔から流れた血が全身を几帳面に覆っていく。床もどろりと濡れ果てる。
私にはそんな私が見えていた。なぜか、私のそばに私が立っていた。
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