小説

ロストサイクル・本文

LC-05-003:美味兎屋

 |美味兎屋《みみとや》ってどういう意味なんだろう。 男の後ろをついて玄関に入り、靴を脱がぬままに中に入っていく。そこは外観からは想像もつかない程に広く、長い廊下を歩く必要があった。内装はシンプルだったが、金色の間接照明が絶妙にアンニュイな...
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LC-05-002:可能な限り完璧なる立方体

 僕は走った。涙が出るほど肩が痛んだが、それでも。 僕を追ってきたのは二人。どんな服装かまで見る余裕はなかったけど、とにかく黒い服を着ていた。その手には鉄パイプのような棒がある。銃でないのは幸いだったが、持っていないとも限らない。 タケコさ...
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LC-05-001:待ち伏せ

 六月に入った頃になってようやく、僕は退院した。六月四日――久しぶりの学校である。その間、タケコさんも夏山ルリカも、もちろん母さんも見舞いに来てくれた。僕の傷は思いのほか重傷だったようで、一歩間違えば死んでいてもおかしくはなかったのだそうだ...
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LC-04-003:消された記憶

 何が起きたのかはわからない。 だが、何かは起きたはずだ。 僕は錯雑とした記憶の破片を拾い集めて、その夜に何が起きたのかを思い出そうとする。タケコさんとの面会の後から、突然記憶が途切れてしまっている。まるで眠りこけて夢でも見たのではないかと...
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LC-04-002:未来を決める

 彼らの狙いは――。 その声は暫く止まった。嗤い声と共に。「誰なの」 僕は左手で握りっぱなしになっていたナースコールのボタンを押し込もうとした。しかし、指が動かない。まるで凍り付いてしまったかのように、ピリピリとした痛みと共に、僕は身動きが...
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LC-04-001:白塗りの天井

 目を覚ますと同時に、僕は左肩の激痛に思わず叫んだ。 すぐに年配の看護師さんが駆けつけてきて、僕のバイタルをチェックする。「春賀|正月《まさつき》さん、わかりますか?」「は、はい」 ひさびさに本名を呼ばれて、一瞬僕は混乱したりしたのだけれど...
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LC-03-005:破損した仮面

 僕らが教室に収まるのを待っていたかのように、ドアが乱暴に開けられた。僕らを含めたクラスメイトたちは、一斉に教室前の方にあるドアに注目した。あまりの勢いで開けられたドアが、外れて廊下で派手な音を立てた。「チョッカ……」 誰かが――ていうか、...
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LC-03-004:チェーン・リアクション

 翌日、五月十日、木曜日。昼休み現在、チョッカは学校に来ていない。そのことについて夏山ルリカは随分と気に病んだ様子を見せていた。「昨日何かあったの?」 僕は少しの気まずさを隠しながら、夏山ルリカに尋ねた。夏山ルリカは僕の前の席を後ろに向けて...
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LC-03-003:アンメモライズド・キス

 僕が狙われている? さっきの今だ。その可能性があるなとは薄ら思っていたが、いざそれを突き付けられるとさすがに平静ではいられない。「あなたが見たのは白髪の男でしょう?」「え、うん」 そう、白髪の男だった。猫背で、その目は爛々と輝いていた。獲...
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LC-03-002:記憶のホログラム

 その日、夏山ルリカは僕と一緒には帰らなかった。部活に寄ったというわけではないだろう。チョッカは無事に告白できたのだろうか。夏山ルリカはどういう返事をしたのだろうか。僕はバスの中でも無性に落ち着かなかった。苛立っていたと言っても良い。思わず...
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