小説

ロストサイクル・本文

LC-03-002:記憶のホログラム

 その日、夏山ルリカは僕と一緒には帰らなかった。部活に寄ったというわけではないだろう。チョッカは無事に告白できたのだろうか。夏山ルリカはどういう返事をしたのだろうか。僕はバスの中でも無性に落ち着かなかった。苛立っていたと言っても良い。思わず...
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LC-03-001:群体と個体

 なんだか大きな喪失感を感じながら、僕は窓の外をぼんやり眺めていた。ぽっかりと何かが抜け落ちてしまったような、そんな薄ら寒さを覚える五月九日水曜日。 昨夜は夏山ルリカを家に送るのに一緒についていき、タケコさんとはそのまま軽くドライブをした。...
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LC-02-004:内閣府情報調査室?

 WRXは静かに夏山ルリカの自宅から離脱する。滑らかな加速により、夏山ルリカの姿が遠くなっていく。彼女の浮かべていた不安げな表情は、今まで見たことのないものだった。「ふう」 赤信号で捕まってようやく、タケコさんは声を出した。出発からこちら、...
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LC-02-003:ぐるぐる廻る

 午後七時を少し回ったところで、僕らの勉強は終わった。終わったと言っても、夜また少し勉強しないとならないのだけれど。忘れかけているが、僕たちは受験生なわけで、それはつまり、一日二時間程度の勉強で足りるはずがないということでもある。もっとも僕...
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LC-02-002:還屋は何番目?

 その翌日、五月二日、ゴーキは学校を休んだ。皆勤賞が狙えるんじゃないかってくらいに休まなかった男が休んだことに、僕と夏山ルリカ、そしてチョッカは揃って驚いた。何かあったんじゃないかなんてチョッカは言ったけど、僕と夏山ルリカは「鬼の|霍乱《か...
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LC-02-001:濡れた女子大生

 四月は何の滞りもなく過ぎた。タケコさんは週に三回ウチにやってきて僕に勉強を教え(主に模擬試験の答え合わせとそれについての詳細な解説なのだが)、夏山ルリカは部活を半ば引退したために、土曜日を含めて週三回はウチにやってきていた。夏山ルリカは学...
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LC-01-004:レヴェリィ

 それから間もなくタケコさんは部屋から出て行ったが、暫くの間、一階にてうちの母と何やら喋っていたようだった。その間、僕はウトウトし始めた夏山ルリカを尻目に、与えられた過去問題に猛然と取り掛かっていた。可能な限り撃破してくれる――僕はそう決意...
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LC-01-003:サリンジャーと魂の場所

 家には母がいて、待ってましたと言わんばかりに三人分の紅茶とお菓子を出してくる。お菓子と言っても、市販のメジャーなモノのアラカルトである。うちの母には、本人曰くケーキ作りの才能はなかったらしい。 高校三年、十七歳男子な僕としては、食べ物はい...
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LC-01-002:見えたもの、残らないもの

 ゴーキとチョッカには、その場でおさらばしてもらった。タケコさん的には一緒に乗せてもOKだったようだが、とにかく今は、これ以上の厄介ごとは御免だった。チョッカがどういうパーソナリティかまでは知らなかったが、俺の中の対人センサーは限りなくレッ...
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LC-01-001:真っ赤なWRX

 四月は春先とはいえ、桜はまだ一ヶ月も先になるはず。例年GWに合わせて桜は咲く。北海道におきましては、GW=桜であるから、必然的にその時期は、|円山《まるやま》公園がジンギスカン臭くなる。カラスも肥え太る季節である。 そして四月と言えば新年...
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