美味兎屋

美味兎屋・本文

濡レ雑巾ノマス秤 第肆話

承前 「悔しいか?」  男は目を細め、口を歪めた。 「悔しいだろうな。枠組みだけは一人前、そのくせ中身は風船のような自尊心が|突付《つつ》かれたのだからな」  赤い布は、くぅん、と鳴いた。顔無しのマネキンの肩が、ク...
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濡レ雑巾ノマス秤 第参話

承前  人間の一部――!?  ゾクッとした。背筋が粟立った。そんな私を見ている男は、退屈そうに眼を細める。 「別に有機体ではない。死体ではない。お前たちの定義に拠ればな」  そして、面白くなさそうに言った。私は膝が...
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濡レ雑巾ノマス秤 第弐話

承前  男は私を誘い入れようとしたが、こんな時間に見知らぬ男の家にホイホイと入ってしまえるほど、私は判断力の低い人間ではない。 「いや、こんな夜中に」「夜中だから何かあるのか?」  まさかの問いかけだ。私は答えに窮する。...
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濡レ雑巾ノマス秤 第壱話

 また深夜残業だよ。月の半分以上は終電を逃がす。  いい加減うんざりだ。世の中は不景気だ。ボーナスだって貰えない。そのくせ公務員様は、普通の企業の三倍も四倍ももらっていやがる。赤字を抱えたって誰一人クビにならないし、我々庶民に何を言...
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匣カラ出タ星 第参話

承前  中は思った以上に広かったが、雑然ともしていた。所狭しと様々なジャンルの物体が並んでいる。アンティーク、電気製品(電卓から洗濯機まで!)、文房具に絆創膏、妙にリアルな人形から某社のマスコットたちまで。しかし、どれにも言える事だ...
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匣カラ出タ星 第弐話

承前  私はどこから見ても、決して格好の良い父親ではない。気の利いたことも言えない。娘の悲しみを理解しきれていない気がする、どうしようもなく無感動な父親だ。感情よりも、理性とやらの皮を被った理屈のほうが先に行ってしまう。 「コ...
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匣カラ出タ星 第壱話

 私は本気で弱っていた。私の右手を小さな手で握り締めて、泣きながら歩いている娘を見て、私もまた泣きたい気分だった。娘は小さな|匣《はこ》を手に持っていた。 「なあ、もう泣きやもうよ」  私が言っても、聞く様子は無い。確かに、聞...
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寝癖ナオシ帽子 第漆話

承前  ――何でだろう。  どうやって持っても、ショルダーバッグを引きずってしまう。持ち上げても、持ち上げても、バッグ本体が持ち上がらない。  ――なぜだろう。  私はバッグの中にある薄汚れた野球帽を見ながら、赤い...
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寝癖ナオシ帽子 第陸話

承前  その声が、「おかお」という文字がキンキンと響き、私の脳の中で音の形象崩壊を起こす。 「こ、この子は、な、な、なな、何なの!」「この子? ああ、そこにいる《《らしい》》ヤツのことか」  男は私の腕を掴んでいる小さな...
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寝癖ナオシ帽子 第伍話

承前 「ねぇ、おかおおかおおかおおかおおかおおかおおかおおかおおかおおかおおかおおかおおかおおかおおかおおかおおかおおかおおかおおかおおかおおかおおかおおかおおかおおかおおかおおかおおかおおかおおかおおかおおかおおかおおかおおかおお...
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