バカな!
そんなバカなことが!
ハインツは魔法障壁を容赦なく突き破ってくる光を迎撃しようと、持ちうる全ての力を解放する。カヤリが使ったのは緋陽陣。あらゆる闇を祓う力を持つ陣魔法。今のハインツにとっては、致命的な一撃になりかねない攻撃だった。
カヤリが……?
あの闇の子が……?
いくら妖剣テラとの接続経路が確立させられていたとはいえ、自由にあの陣魔法が使えるようになるというのは、全くの予想外だった。
ははははは……!
ハインツは笑い始める。不意に可笑しくなったのだ。
さすがは魔神の片割れ! すばらしいぞ、予想外だ! 予想外にすばらしい!
ハインツの哄笑は止まることがない。ハインツの計算が間違えたことは今までただの一度となかった。だからこの誤算は、人生初めてのものだ。
ハインツは魔神ウルテラの力を見誤っていたのだ。
そして何より、カヤリの潜在能力を見抜ききれなかった。
カヤリこそ、人々を導く鍵だったのだ。人類をより高みへとシフトさせるための、貴重な要因だったのだ、カヤリは。
それを見落としたのは、完全に手落ちだった。
使い捨てと思っていた自分を、問い詰めなければならない。
圧倒的な光の波に、その魂を削り取られながら、ハインツは自省した。
だが、終わらぬ。
私はまだ、終わらぬ。
人としての頸木を外された今、私を止められるものは何もない。
私こそが神であり、私こそが人類全ての頂点――!
「それは違うよ」
少女の声が、ハインツの思考を中断させた。
「あなたは神なんかじゃない」
なんだと……?
思考のノイズに対し、ハインツは敵意を以て問い返す。
少女の声は、厳かと言っても良い程の威厳を込めて明言した。
「あなたは、小さな世界の天才なんだ」
ハインツの心にその言葉が突き刺さる。
この私に何たる戯言を言うか!
猛るハインツの意識に、しかし、少女は揺らがない。
「あなたは罪を償わなければならないんだ。あなたはみんなに謝らなければならないんだよ」
私に罪があるだと?
私は何ら罪など犯してはいない!
ハインツの言葉を、カヤリは「いいえ」と否定する。
「あなたの罪を決めるのは、あなたじゃない」
少女は一切の迷いもなく、ハインツを断罪した。
世界は完全に光に包まれた。
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