WA-08-07:弾劾

大魔導と闇の子・本文

 バカな!

 そんなバカなことが!

 ハインツは魔法障壁を容赦なく突き破ってくる光を迎撃しようと、持ちうる全ての力を解放する。カヤリが使ったのは緋陽陣ジェルメール・ヅォーネ。あらゆる闇をはらう力を持つ陣魔法ヅォーネ。今のハインツにとっては、致命的な一撃になりかねない攻撃だった。

 カヤリが……?

 あのが……?

 いくら妖剣テラとの接続経路が確立させられていたとはいえ、自由にあの陣魔法ヅォーネが使えるようになるというのは、全くの予想外だった。

 ははははは……!

 ハインツは笑い始める。不意に可笑しくなったのだ。

 さすがは魔神の片割れ! すばらしいぞ、予想外だ! 予想外にすばらしい!

 ハインツの哄笑は止まることがない。ハインツの計算が間違えたことは今までただの一度となかった。だからこの誤算は、人生初めてのものだ。

 ハインツは魔神ウルテラの力を見誤っていたのだ。

 そして何より、カヤリの潜在能力を見抜ききれなかった。

 カヤリこそ、人々を鍵だったのだ。人類をより高みへとシフトさせるための、貴重な要因だったのだ、カヤリは。

 それを見落としたのは、完全に手落ちだった。

 使い捨てと思っていた自分を、問い詰めなければならない。

 圧倒的な光の波に、その魂を削り取られながら、ハインツは自省した。

 だが、終わらぬ。

 私はまだ、終わらぬ。

 人としての頸木くびきを外された今、私を止められるものは何もない。

 私こそが神であり、私こそが人類全ての頂点――!

「それは違うよ」

 少女の声が、ハインツの思考を中断させた。

「あなたはなんかじゃない」

 なんだと……?

 思考のノイズに対し、ハインツは敵意を以て問い返す。

 少女の声は、おごそかと言っても良い程の威厳を込めて明言した。

「あなたは、小さな世界の天才なんだ」

 ハインツの心にその言葉が突き刺さる。

 この私に何たる戯言ざれごとを言うか!

 たけるハインツの意識に、しかし、少女は揺らがない。

「あなたは罪を償わなければならないんだ。あなたはみんなに謝らなければならないんだよ」

 私に罪があるだと?

 私は何ら罪など犯してはいない!

 ハインツの言葉を、カヤリは「いいえ」と否定する。

を決めるのは、

 少女は一切の迷いもなく、ハインツを断罪した。

 世界は完全に光に包まれた。

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