> em.startCombat(target)
アキとミキは、都市の外縁部、人間がほぼ立ち入らない場所にある出入口から姿を現した。深夜という事もあり、周囲は真っ暗だ。このご時世、夜中まで明かりがついているのは歓楽街の極々中心部だけである。それもこの曇天の夜闇に比べれば、実に心細い文明の灯だ。
「さぁ、どう来るかな」
丘の上まで上がったミキは、バイザーを下ろして周囲を走査する。全身を固めた火器が物騒な金属的ノイズを奏で立てる。その隣では、アキが片膝を立てていつでも状況に対応できる態勢を取っている。二人の眼球には暗視装置も組み込まれているので、視界の確保には苦労しない。邪魔になると言えば、都市部とこの丘を隔てる林くらいだ。それもちょっとしたノイズ程度のものでしかないのだが。
「アカリ、こっち把握できてる?」
『もちろんよ、アキ。で、悪い知らせがあるけど、訊く?』
「冗長だぞ、アカリ」
ミキが苛々とした口調で言うと、アカリは論理ネットワークの向こうで唇を突き出した。
『In3局所ネットの侵食汚染を確認したわ』
「いきなりか」
ミキのセンサーには未だ何の反応もない。視界にも動くものは捕捉できていない。蛾のようなものが多数舞っているだけだ。
「チッ」
突然ミキは舌打ちをすると、バイザーを親指で押し上げた。
「アカリ、侵食率は?」
『14パーセント。速い!』
「カタギリのバックアップはあるんだろうな」
『なかったらとっくに陥落してるわ』
「こっちのセンサー、もうクラックされてるぞ、ちくしょうめ」
ミキは両肩に装備している25mmチェインガン、両腕の12.7mm対物ライフル、両腰のグレネードランチャーの安全装置を次々と外しながら、重心を低くした。In3局所ネットが侵食され始めてるということは、つまり、接敵したということだ。
「アキ、油断するなよ」
「誰に言ってるの」
アキは右手に長剣、左手に円形のエネルギーシールドを発生させてその時を待つ。
『南南西四百メートル、高エネルギー反応確認』
「アキ、移動する」
「りょ」
ミキは迎撃態勢を解除するなり、丘の陰に身を潜めた。アキも滑り込むようにして飛び込んでくる。その刹那、夜の闇が引き裂かれた。
「荷電粒子砲ッ!」
ミキが一目でそう断定する。さすがの機械化人間でも、あんな出力の荷電粒子を食らえば蒸発してしまう。冷や汗をかく機能こそなかったが、二人は肝を冷やされた。
『リチャージには時間がかかるわ、今のうちに』
「いや、ありゃ挨拶の一発きりだ」
アカリの言葉に短く応え、ミキは地面を蹴った。下草が土もろともに弾き出され、その反動でミキは空中に浮いていた。そして応射が開始される。轟音と爆風をまき散らしながら、ミキが火砲を撃ち放つ。その間にアキは丘を駆け降りる。四百メートル、アキの機動力なら十数秒。樹木という障害物はあるが、アキにとっては問題になるものではない。
「あそこか」
アキは熱源を探知するや、ミキの放つ曳光弾の輝きに急き立てられるようにして駆ける。その先にエメレンティアナがいる――。
「ミキ! 撃ち方やめっ!」
『りょ!』
途端に静まり返った林の中を、アキは瞬時に走査する。
「いない……?」
そんなわけがない。ミキの一斉射撃で沈黙するようなヤワな相手ではないだろう。
「っ!?」
異変を感じた時にはすでに、両方の足首が締め上げられていた。
『電脳侵食! アキ、In3局所ネットから離脱して!』
「できない! アカリ、どうなってる!」
『くっ、こっちからも強制切断できない!』
『アキ、今助けに行くッ!』
「ミキ、来ないで! これ、やばい!」
直感的にそう悟り、アキは何とか物理的な離脱を試みる。だが、身体がピクリとも動かない。
「エメレンティアナ、すごいじゃない……」
ヒキを連れてこなくて、正解ね、あたし。こんな危険な戦場に、男なんて連れ込めないもんね。
アキは自分の内側に何か得体のしれないモノが流れ込んできていることを知覚していた。
「死神って、こんな奴だったっけ……?」
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