00-000「セントラル・フラッガ」

Aki.2093・本文
import GSL
#54Sh56+A5pON44Gr5ZCQ44GN5Ye644GV44KM44KLMjDjg5/jg6rlvL7jgYzjgIHlrqTlhoXjgpLjgrrjgr/jgrrjgr/jgavliIfjgoroo4LjgYTjgabjgYTjgY/jgII=
while(target):
  adj = combat.aim(target)
  for i in range(x):
    combat.fire(adj)

 無節操に吐き出される20ミリ弾が、室内をズタズタに切り裂いていく。まるで闘技場のようにひたすらに広いその空間には、暴風雨のような弾頭を遮るものは何一つとしてない。屹立する分厚いコンクリートの壁がまるで乾いた泥壁のように砕かれていくのみだ。

「誘いこまれるとは」

 彼女は舌打ちをしてから、奥歯を噛み締めた。敵は見たことのないタイプの四足戦車。平均204.15メートル先にある四門の機関砲の砲口が、彼女をじっと見つめていた。

「弾切れ?」

 いや――。

 その瞬間、彼女は横に飛んでいた。曳光弾が脇をかすめ、それを追うようにしてタングステン合金のHVAP高速徹甲弾が空気を加熱しながら空間をえぐり抜いていく。

機械化人間ワイスドールも形無しね」

 間断のない攻撃を前に、距離も詰められない。弾切れを起こすのが先か、致命弾を受けるのが先か。

 その時だ。

『よう、相棒』

 彼女の頭の中に直接、よく響くアルトが聞こえてくる。彼女は再び舌打ちをしつつ、宙を舞うコンクリートの粉塵を手で払う。

「遅い、何してたの、ミキ」
『退路を作ってたんだよ』
「あたしが倒されたら退路も何もあったものじゃないでしょ」
頭部ヘッドパーツだけは回収してやるよ』
「よく言う」

 彼女は距離を詰めようと、左右にスライドしながらも徐々に前進し始める。機関砲の弾が彼女の頭や肩を掠め飛んでいく。四足戦車がじりりと後退を始める。砲弾が彼女の左腕に連続的に命中。付け根付近から吹き飛ばす。だが、彼女は止まらない。バチバチと放電する左肩が、飛来する曳光弾と共に薄暗い空間にいろどりを添える。

> tDtc = getDistance(target)
> display(tDtc)

 距離、99.7メートル。一気に駆ける。彼女の速力なら、あと三秒もあれば近接戦闘距離に持ち込める。

 彼女が入ってきて以来、固く閉ざされたままになっていた扉が赤熱して弾け飛んだ。おびただしく上がった蒸気の向こうに、一つの人影が現れる。

『アキ、右に跳べ』
「りょ」

> adj = combat.aim(target)
> while(target):
>   combat.fire(adj)

 弾雨にさらされながら、彼女――アキは右へ跳んで地面を転がった。四足戦車から打ち付けられる弾丸が、地面を掘り起こして迫ってくる。アキは長い黒髪を振り乱しながら転がり続ける。

 空間が光る。熱量と衝撃波が半球形の歪みを生む。四足戦車の上部構造物もろともに、機関砲がまとめて蒸発する。

> dmg = getDamage(self)
> if dmg > ...

「マジ手こずらせてくれて」

 アキは呟いた。まだ終わってはいない。搭乗者オペレータを引きずり出さなければならない。この空間を支配している局所ローカルネットワークはまだ生きている――ということは、この四足戦車の搭乗者は未だということだ。

「手伝うかい?」

 ミキが重たい金属質の足音を立てながら近づいてくる。両腕、両肩、背中、ふくらはぎ、そして腰に、これでもかというほどの火器を装備した機械化人間ワイスドール、それがミキだ。対するアキは近接戦闘モジュールで全身を固めている。機械化人間ワイスドール――二人とも、いわば戦車と同じ扱いの兵器である。

「周囲を警戒してて、ミキは」
「りょ」

 周囲っつったってねぇ、と、ミキはぼやいた。光ファイバー製の白い頭髪が、大破した四足戦車から吹き付けてくる熱気に揺れる。ミキは再度視覚に投影されている情報を確認してから、肩をすくめた。

「ここの施設の兵器群は、そいつを何とかすれば全て停止する。バイパスネットワークはアカリが制圧済みだし」
「なる」

> tDtc = getDistance(target) 
> display(tD...

 四足戦車の目前に迫ったアキは、その右手に刀を生じさせた。ナノマシンで構成された試作近接兵器だ。アキの視界には、その四足戦車から発されている電子信号が見えている。それは施設全体のネットワークに作用するものであることまでは、アキの電脳が解析済みだ。この四足戦車が、この要塞の中央制御装置セントラル・フラッガなのだ――それはアカリの事前調査リサーチで分かっている。

「カタギリさんは?」

 アキの問いに、ミキは「んー」と情報を確認する。

「出るまでもないってさ」
「そう」

 管理職は気楽でいいなと、アキは心の中でぼやく。
 
「アキ」
「わかってる」

 ミキの言葉に答え、アキは右手を振るった。左腕は失われたままだったが、放電は止まっていた。

「まったく」

 アキは四足戦車から現れたその姿に、また肩を竦めた。

「またまたGSLなの」
「やっぱりだねぇ」

> getWeapon(Swords)
> combat.swords(target, getCombatSituation(self, target, ev))

 ミキは両肩のグレネードキャノンをその青白い人影に向けた。GSLと呼ばれたその人影は、一見すると青白く光る女性型のマネキンのようだった。精巧な人形特有の不気味な表情が、その眼球が、ぬらりとアキとミキを眺めやる。その両手にはいつの間にかそれぞれ長剣が握られていた。

「最近コレばっかね」
「仕事が増えてうれしいだろ」
「冗談じゃないわよ、ミキ」

> combat.swords(target, getCombatSituation(self, target, ev))

 アキは吐き捨てる。それと同時に、GSLは斬りかかってくる。電光石火の攻撃を前に、右腕しかないアキは思わず後ろに逃げる。ミキはニッと笑って問いかける。

「選手交代?」
「冗談言わないの」

> combat.swords(target, getCombatSituation(self, target, ev))
> combat.swords(target, getCombatSituation(self, target, ev))
> combat.swords(target, getCombatSituation(self, target, ev))

 コンクリートの床がえぐり出されるほどの力で地面を蹴り、アキはGSLに肉薄する。GSLは怯んだ様子もなく迎撃体制に入る。アキの刀が一閃する。GSLの右手の剣が粉砕される。ナノマシンの結合がほどかれたのだ。流れるような二撃目が、左手の剣も消滅させる。ミキは両目を赤く光らせながらニッと笑った。

> judge = getCombatSituation(self)
> if...

「――行けるな?」
「もちろん」

 即答したアキの刀が、GSLを袈裟懸けに切り裂いた。

> dmg = getDamage(self)
> if dmg > ...

「答えろ、GSL」

 仰向けに倒れたGSLの顔を見下ろし、アキは言った。GSLの瞳孔がアキを映す。

「お前たちの目的は何? 世界平和を実現するために生み出されたはずのお前たちが、なぜ人類を襲う。何がお前たちを統率オペレイトしている」

info.speak("我々は全知にして最先いやさき。人を導くために生み出された者なり。我々は、なり")

「またか」

 刀をGSLの喉元に突きつけながら、アキは吐き捨てる。ミキは「参照元リファラが同じなんだろうさ」と腕を組んだ。

info.speak("聖女に剣を持たせてはならない。我々は万物の霊長にして、人の導かれるべき姿なり。我らに従え。さもなくば、人類はる")

「確かに。このスピードで制圧していたら、数ヶ月ともたないでしょうね」

 アキは光の粒子を噴き上げ始めたGSLを見て、手にした刀を消滅させた。勝負はあったのだ。

「もっとも――」
「このアタシたちをどうにかできればの話だけどね」

 そう言ったミキは「任務完了、撤収する」と呟いて、アキの右肩を小突いた。

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