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アキとミキは戦争末期に生み出された機械化人間である。機械化人間は、戦争末期の兵員・兵器不足を解決するために、突貫的に研究開発されたという経緯を持つ。そう、アキもミキも、かつては人間の一兵士に過ぎなかった。より正確に言えば、瀕死の重傷を負った――生存の見込みのない――無数の兵士の中から無作為に抽出されたサンプルである。
機械化人間は、全世界で合計数十体が開発されたと言われているが、開発責任者である八木博士は大戦中に失踪しており、また、研究施設自体も環地球軍事衛星群による空爆によって蒸発させられてしまっており、その詳細は不明だった。その頃には日本国は情報的にも諸外国から遮断されてしまっており、また、長距離航空兵器の類も環地球軍事衛星群によってことごとく制圧されてしまっていた。そのような事情もあり、日本国は事実上の鎖国状態に陥っていた。
ただ、環地球軍事衛星群によるネットワーク制圧の直前には、機械化人間の開発情報が海外へ流出したという分析をしている研究機関もあった。こと、米国はずいぶん以前より情報を手に入れていて、大戦末期にはすでに機械化人間のプロトタイプを投入していたというまことしやかな情報も人口に膾炙していた。
「まったく恐ろしい兵器だぜ」
両目を望遠モードにしてその戦闘状況を眺めながら、ヒキが擦れた声を発する。身の丈五十メートルの化け物を相手に、白兵戦を仕掛ける機械化人間たち。突如周囲に現れた十体ものGSL戦闘端末を前に、一歩も引かない戦闘力。街は破壊され、人々は蹂躙され、軍は壊滅させられたが、それでも二人は戦いを諦めていなかった。
「あれが機械化人間の性能とやらか」
だが、五年以上に渡って数々の作戦を共にしてきたヒキですら、二人がここまで苦戦させられるのを見たことがない。どんな作戦でも、たいていは数分で決着がついていた。機械化人間はそれほどまでに強大な兵器なのだ。唯一の弱点といえば、明確な意思を持っている――元が人間なのだから当たり前だが――ことで、これが良くも悪くも機械化人間の性能を決定付けていた。
『あの二人は段違いだ、ヒキ。アサクラが連れてきただけのことはある』
「連れてきた?」
カタギリの言葉に、ヒキは思わず苦笑した。
「盗んできたの間違いでしょう、カタギリさん」
『廃棄処分されるところだったのだから、善意のリサイクルというべきだろう』
カタギリは感情の籠もらない声で言った。それは男女不詳の声だったが、どうやらかつては女性だったらしい――アカリがそんなことを言っていたなとヒキは思い出す。性別など、ヒキにとってはどうでも良い情報である。
「で、カタギリさん、アカリ。あの二人に勝ち目はあるのか、あんな化け物相手に」
『そうね』
アカリが応じた。
『物理活性したGSLなんて国内には前例がないけど』
「国外は?」
『アメリカおよびEUで一体ずつ。ただ、情報があまりに断片化していて詳細は不明。でも今々、世界中で物理活性する現象が発生しているみたいよ』
「そいつぁマジかい」
ヒキは肩を竦める。そうしながらも、その両目を赤く輝かせつつ、三キロ先で戦うアキとミキの一挙手一投足を見つめている。スモッグと硝煙によって濁り切った空気の中で、二人の機械化人間が戦っている。しかし巨大な、悪魔のようなGSLは、己が生み出した戦闘端末にアキとミキを任せ、ひたすらに街を蹂躙する。もはやカタはついた――そう言わんばかりの態度だった。ヒキは舌打ちする。
「勝ち目は?」
『あの子たちが勝てないなら、少なくとも我が国は絶望的』
カタギリの義務的な回答に、ヒキは頭を掻いた。
「俺にできることは?」
『ない』
「でしょーね」
ぼろぼろの二人を回収するくらいしか。今夜もまた徹夜か――ヒキは幾分げんなりした。そこにアカリが割り込んでくる。
『In3局所ネットワーク、浸食率90パーセント』
「……それまずくね?」
『相手のネットワークへの浸食率は92パーセント』
「肉斬骨断もいいけどさ、スリルは求めてないぞ」
『カタギリさんが負けたら、それはそれで日本国は終わるわ』
「まぁな」
ヒキは次々と破壊されていく戦闘車両を眺めつつ「ああ、もったいねぇ」と呟く。かつて一台数億円という税金が投じられた代物が、ものの数秒で破壊されていく。戦闘ヘリはもはや一機もいなかったし、地上から放たれる砲弾も目に見えて少なくなっていた。悪魔の進撃は止まらない。
「どこへ向かおうと言うんだか」
『北海道ね』
「ここから海超えるって? 根拠は?」
『GSLが生み出された場所だからよ』
「なんか残ってるわけ?」
『さぁ。今あの大地は、人間が立ち入れないから』
そうだったなと、ヒキは呟く。現在、北海道はその広大な全域に渡って高濃度の――即死レベルの――放射能の霧に覆われている死の大地だ。津軽海峡から北へは、この十年間、軍の特殊部隊が一度上陸したきり、誰も立ち入っていない。ロシア、中国との激戦の傷跡と言えばまだ聞こえは良いが、要は各国の新兵器によるバトルロワイヤル会場と化しただけの話だ。その中には少なくともロシア製および中国製のGSLが存在していたという。日本製のものがあったかどうかは記録には残されていない。いや、存在する記録が正しいものであるかどうかという確証が何一つない状況である――というのが正しい情報である。
「前から不思議だったんだけどさ。ロシアや中国はなんで北海道を占拠しないんだ。戦中はあんなに欲しがっていたじゃないか。なぁ、アカリ」
『単にGSLのコアテクノロジが欲しかっただけだからよ。でも、それら全てが実は北海道なんかじゃなくて、環地球軍事衛星群の複層型データベースに保存されていることが公開されたじゃない? 当の長谷岡博士によって』
「だったっけ?」
『そして北海道は人類にとっては事実上蒸発した。米中露の核兵器の暴走によってね』
「それもシステムの暴走だったって」
『暴走させたのよ。誰かが』
ふぅん、と、ヒキは相槌を打つ。その間にも、アヴァンダの動きから目を逸らさない。アキとミキは善戦しているようだったが、GSLの戦闘端末によって足止めを食らっているようだった。なにせ戦闘端末は一体でも難敵なのだ。ミキと揃っているとはいえ、十体も同時に相手するとなるとそれは厳しいものになる。
「誰かって?」
『長谷岡龍姫博士じゃないかって、カタギリさんは見ている』
「長谷岡博士が? そりゃまるで――」
ヒキはそう言いかけて、慌てて地面に伏せた。アヴァンダと目が合ったからだ。アカリとのIn3局所ネットワークを介した会話から逆探知されたに違いない。
「あぶねぇ」
『全く油断ならないね、本場のGSLは。大丈夫、カタギリさんが邀撃したわ』
「それで」
冷や汗を拭きながら、ヒキは問う。
「俺はどうすりゃいい。あんな怪獣みてえなヤツ、手の出しようがないぜ」
『あなたはそこで局所ネットの中継地やってくれてればいい。あなたがやられない限り、アキとミキは負けない』
「でも――」
『GSLの戦闘端末の全消滅を確認。次の発生まではまだ時間はかかると思う』
「根拠は?」
『論理ネットワークの活性状況を見ればわかるわ。今、アヴァンダの――』
「ああ、オーケー。その辺はカタギリさんに任せる。あとはアキとミキの勝利を祈ってりゃ良いってわけだな、俺は」
『そういうこと』
余計なことはしなくてよろしい――アカリは言外にそう言った。ヒキは肩を竦めて彼方の戦闘状況に目をやった。
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