物語

美味兎屋・本文

寝癖ナオシ帽子 第漆話

承前 ――何でだろう。 どうやって持っても、ショルダーバッグを引きずってしまう。持ち上げても、持ち上げても、バッグ本体が持ち上がらない。 ――なぜだろう。 私はバッグの中にある薄汚れた野球帽を見ながら、赤い看板を見上げていた。そこには読めな...
美味兎屋・本文

寝癖ナオシ帽子 第陸話

承前 その声が、「おかお」という文字がキンキンと響き、私の脳の中で音の形象崩壊を起こす。「こ、この子は、な、な、なな、何なの!」「この子? ああ、そこにいる《《らしい》》ヤツのことか」 男は私の腕を掴んでいる小さなものを指差した。が、少しそ...
美味兎屋・本文

寝癖ナオシ帽子 第伍話

承前「ねぇ、おかおおかおおかおおかおおかおおかおおかおおかおおかおおかおおかおおかおおかおおかおおかおおかおおかおおかおおかおおかおおかおおかおおかおおかおおかおおかおおかおおかおおかおおかおおかおおかおおかおおかおおかおおかおおかおおかお...
美味兎屋・本文

寝癖ナオシ帽子 第肆話

承前 バリ……? 私はその音を捕えた我が耳と、目の前の光景を捕えている我が目の正当性を疑った。頭の中で現象が現実にならない。認知が追いつかない。 男は「どうやら」とソファで足を組み替えながら言う。「またエゴが出たようだな、お前。面倒なヤツだ...
美味兎屋・本文

寝癖ナオシ帽子 第参話

承前「え……?」 思わず聞き返す私。「だから、お前は何の用でここにいるんだ?」 いったいぜんたい、この男は何を言っているんだろう? 意味もわからぬままに背筋が泡立った。 私のスカートの裾を何かが引っ張っている。ちょんちょん、ちょんちょん、と...
美味兎屋・本文

寝癖ナオシ帽子 第弐話

承前 びみ……うさぎや? 何の看板だろう? いや、そもそも……ここは店なんだろうか。 考えながら、私は恐る恐るドアチャイムのボタンを押そうとした。が、物理的に押せない。スイッチの中で何かが引っかかっているみたいだ。 仕方がないので、力加減に...
美味兎屋・本文

寝癖ナオシ帽子 第壱話

 ああもう、腹が立つ。 また残業だ。あと何分かで明日じゃないか。 つい半年前は、二十代で管理職になれたことを誇りに思っていた。自分の仕事が認められた。能力が認められた、と。がむしゃらに頑張ってきたことは無駄じゃなかったんだと。 それが滑稽だ...
美味兎屋・本文

循環想像リアクション 第弐話

承前 しかし男はそれを見下ろしながら、またもや肩を|竦《すく》めた。そしてあろうことか私を更に挑発する。「食べ物を粗末にするとは。罰が当たるぞ」「うるせぇ! ばかにしやがって!」「それは正しいな。俺はお前をバカだと思っている」 伸ばした私の...
美味兎屋・本文

循環想像リアクション 第壱話

 コンビニでカップラーメンとおにぎりを買い、入り口の外で座り込んでいる粋がった連中を心のなかで|見下《みくだ》し、信号のない道路のなかなか途切れない車列に軽く腹を立てながら、いつものように、いつもの帰り道を急ぐ。 外はもうだいぶ寒くなってき...
美味兎屋・本文

ゼロゼロシイタグ 第参話

承前 答え合わせといこう――彼は表情でそう宣言する。その態度に私は確かに苛立ったが、私が文句のひとつも言おうと口を開く前に、男は朗々と|厭味《いやみ》たらしく先を続けてしまった。「常識なんてのは、|一般人《マジョリティ》の能力では説明のつけ...
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