小説

大魔導と闇の子・本文

WA-05-03:背負える罪、背負えない罪

 まったく、不覚を取った。 足を組んでソファに座っているグラヴァードは、苦笑しながらそう言った。窓の外には月のない、凍てついた夜空が広がっている。「本当にどうなることかと思いました」 薬湯を持ってきたトバースがそう応じる。燭台の灯がトバース...
大魔導と闇の子・本文

WA-05-02:正義の天秤、正義の価値

 だだっ広い浴場は相変わらずの貸し切りだ。無人を確認したヴィーは、出入り口に施錠をすると豪快に服を脱いだ。カヤリも真似をして黒いローブを脱ぎ捨てる。「ここにはハインツ様も入ってこられやしないさ」「だねー」 二人はそう言いながら洗い場に移動す...
大魔導と闇の子・本文

WA-05-01:三日後の覚醒

 カヤリが意識を取り戻したのは、それから三日が経ったころだ。例の「椅子の部屋」は恐ろしいほど濃密な魔力で溢れていた。ハインツとヴィーの会話の直後に発生した妖剣テラからの魔力の過剰供給によって引き起こされた現象で、その濃度は大魔導とはいえど致...
大魔導と闇の子・本文

WA-04-06:兵器としてのアイデンティティ

 よくやった、カヤリ――。 ハインツは口角を上げる。無表情な中に刻まれた笑みの形は、さながら能面のようだ。 ハインツの視線の先には、あの椅子に座らされて、虚ろな表情をしているカヤリがいる。その視点は定まらず、口は半開きだった。そして今、カヤ...
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WA-04-05:緋陽陣

 グラヴァードの周辺に無数の光線が降り注ぐ。一発一発が致命傷になり得る威力の攻撃魔法だ。「《《異形》》か」 異形――別次元から召喚される化物たち。 その一体が、今、グラヴァードの眼前に顕現しつつあった。空を引き裂き現れたのは、翼の生えた人型...
大魔導と闇の子・本文

WA-04-04:ハインツ

 グラヴァードの前に現れたのは、黒衣の男――ハインツだった。 グラヴァードは全く無感動に、その姿を正面に捉えた。手にした剣が放つ光の量が、一段増す。「グラヴァード」 ハインツが語りかける。「我々の邪魔をする理由を聞かせてもらおうか?」「一体...
大魔導と闇の子・本文

WA-04-03:理想と妄想

 クソッ! トバースは吐き捨てて、短距離転移で逃げようとする。だが、転移が発動しない。「なんだっ!?」「あたしの能力が炎だけだと思うなよ?」 ヴィーの目がいっそう金色に輝く。トバースは状況を瞬時に察し、魔法障壁の強化に全力を注ぐ。「僕たちは...
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WA-04-02:炎使い vs 人形師

 外は痛いくらいに晴れ渡り、空には嫌味なくらいに星が輝いていた。晴れているのに雪のような雨のような、細切れの水滴が降っている。雪に覆われた地面には、いくらかの野生動物の足跡が刻まれていた。 寒風というのも生易しい、まるで剃刀の刃のように鋭い...
大魔導と闇の子・本文

WA-04-01:再潜入

 |魔狼剣士団《フォールディラス》の一部隊を壊滅させてから、一週間が経過する。 その間もカヤリへの接続実験は続けられ、カヤリはいよいよもって自我を手放しつつあった。逃げることの出来ない環境下で繰り返される苦痛を伴う実験である。むしろこれまで...
大魔導と闇の子・本文

WA-03-05:壊崩陣

 まったく、無茶をする。 グラヴァードは|昏々《こんこん》と眠り続けるトバースを見て、小さく息を吐く。あれから丸一日が経過するが、未だ覚醒の様子はない。物理的ダメージこそ皆無だったが、あの瞬間、魔力の逆流に晒されたのだ。トバースの内外を|揺...
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