05-004「溜息をつく」

Aki.2093・本文

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 そこからもスムーズにGSL殲滅戦は続き、アキたちはさしたる被害もなく順調にGSLたちを撃破していっていた。ヒトデも内臓人間も、撃破にはさほど手間取らなかった。もっとも、立ち並んでいたビル群のほとんどは倒壊し、今や戦いの舞台は平地にならされてしまっていたのだが。

 すっかり見通しの良くなった街並に残るGSLは一体だった。ずば抜けて気持ちの悪かった眼球の化け物だ。涙のように小さな目玉をこぼし、いやにリアルな視神経を引き摺りながら、じわりじわりとアキに向かってくる。

『アキ、砲撃が通用しないわ!』

 アカリの甲高い声が響く。正確無比な砲撃は、確かに眼球に着弾していたのだが、傷つけられているようには見えなかった。薄い被膜のようなもので弾き返しているように見えた。

「なるほどぉ」

 アキは大剣を担ぎつつ、頷いた。

「こいつが実質、ボスか。一筋縄ではいかないということだね」

 アキは直径百メートルを軽々超える眼球と睨み合う。

 へぇ、目玉ってこうなってるんだ──アキは場違いな感想を持ちつつ、近くのビルに跳び乗った。足場になるビルはもはや数えるほどしかない。足場がなければ攻撃が届かない。そうなればチェックメイトだ。

「アカリはこっからログアウトして、カタギリさんをサポート。ミキはこっち手伝って」
『りょ』

 二人は同時に返答してくる。「さて」――アキは大剣を握りなおす。

「どーしますかねぇ」

 呟きつつ、目玉とまっすぐに見つめあう。そこには何の意志も感じない。気持ちの悪いガラス玉を覗き込んでいるような――得体のしれない好奇心を刺激されているような感じを受けた。

 飛び込んで斬りかかるか。それとも様子を見るか。

 どっちだ? どっちがベターだ?

 アキは一瞬躊躇しかけたが、その瞬間に慌ててそのビルから隣のビルに飛び移った。

「うわぁっ!?」

 爆風と熱波。ビルがたちまち溶解した。アキのいる隣のビルのコンクリートも、見る間に赤熱を始める。アキはたまらずそのビルから飛び降りて、砂の大地に着地する。

「あっぶない!」
「大丈夫か、アキ」

 ミキが対物ライフルだけを持って走ってくる。

「この距離でも役に立たんか!」

 弾を撃ち尽くし、ミキはライフルを放り投げる。砂の上に転がるくろがねの塊は、砲身から煙を上げていた。

「ったく、どうするかね」

 ミキは右手に二メートルほどもある刀を生じさせる。アキは大剣を担ぎながら首を何度か横に倒した。

「困ったねぇ。ね、ミキ」
「のんきだな」
「でも、活路はあるさぁ」

 ゆっくりと方向転換を行っている目玉を見上げ、アキは「あ、そうか」と頷いた。

「視神経だ。なにも目玉を直接殴る必要はないよね」
「それもそうか」

 ミキは、目玉の奥に垂れ下がる極太のワイヤーのような神経の束を見て納得する。

「アタシがデコイやるから、お前、なんとかしろ」
「はいさ!」

 アキは軽く応答すると、そのまま駆け出した。

 正面から突っ込む奴があるかよ――ミキは肩をすくめて、まだ無事な建物の上に跳び上がる。そして何度か屋上を渡り、目玉と同じ高さにまで移動する。視線が合ったらあのビーム攻撃が飛んでくる。食らえばひとたまりもないだろう。

 ミキは眼下を走るアキを見ながらそう考える。アキは逃げ場がない。アキに向かって撃たせるわけにはいかない。

 ミキは刀を左手に持ち替え、右手に大型の拳銃を出現させた。大戦前に使われていた.50口径の狩猟銃である。ゾウでも一撃で倒せる威力を持つが、このGSLの前には小石が当たった程度の威力でしかないだろう。

 だが、ミキはそれを乱射する。弾切れを起こしたタイミングで銃を捨て、両手で刀を構えて跳躍する。目玉がぎろりと方向を変える。ミキと目が合う。

「間に合えッ!」

 目玉の奥がきらりと光る。刀身が瞳孔の真ん中に激突する。不可視の防壁によって弾き返されるが、ミキは空中で体勢を変え、ビルの壁を蹴って再び同じ場所に切りつけた。

「アキっ、急げっ!」

 ミキは傷つけた防壁にさらに切りつけ、重力に引かれて地面に落ちる。砂埃が派手に舞い上がる。目玉がゆっくりと下を向く。その内側で熱エネルギーが高まっているのが観測できた。

 ミキは咄嗟に目玉の真下に回り込む。視界のずっと先では、視神経の先端に取りつこうとするアキの姿が見えた。

 ミキは全身六門の装備を再度出現させると、目玉の下にあお向けに滑り込んだ。そして全火力を目玉の瞳孔に集中させる。膨大な熱量が砂嵐を巻き起こす程の火力が、ほんの一瞬のうちに解き放たれる。瞬く間に砲身が赤熱し始める。

「ここまでかよっ!」

 瞳孔が急激に小さくなった。

「まずっ――」
『セーフ!』

 ミキの脳内に、アキの能天気な声が響いた。

 パァンと滑稽な音を立てて、眼球が破裂する。粘度の高い液体がミキの上に降り注ぐ。

『……でもない?』
「いや、大丈夫だ」

 頭のてっぺんから爪先までをドロリと濡らしながら、ミキは幾分か憤然としていた。

「まったく気持ち悪い」
『ごめんねー』
「気にするな」

 どうせ物理層に戻れば何もなくなる。気にすることでもない。触覚情報は破棄すれば済むし。ミキは顔にまとわりつく液体を手で払いながら、

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