小説

治癒師と魔剣・本文

DC-18-03:斬り込み

 イレムはファイラスとケーナを従えて、ひたすらに突き進む。敵の抵抗はもはや微弱だった。思い出したように矢が飛んでくるが、そんなものは不可視の防御壁で守られたイレムたちには通用するはずもない。大型の攻城兵器も持ち出されてきたが、それらはすべて...
治癒師と魔剣・本文

DC-18-02:見物席

 |神帝師団《アイディー》はたったの一騎で本陣を潰す――なるほどな。 眼下で大殺戮劇を繰り広げている騎士を見て、バルコニーに立つグラヴァードは少しだけ表情を緩めた。隣で興味深げに下界を覗き込んでいるカヤリを伺うと、カヤリは呆れたように肩を|...
治癒師と魔剣・本文

DC-18-01:俺が勝つと言ったら勝つ

 帝国軍の本陣は、もはや百人にも満たない規模にまで縮小していた。負傷者を尽くエウド、或いはそれ以南の都市へと送ったためである。後送された負傷者たちの多くは、物資の流通に携わる。それにより、戦で滞っていた輸送経路が復活し、必要な医薬品や食料の...
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DC-17-06:聖司祭と大魔導

 同じ頃、カヤリはクォーテル聖司祭の私室に姿を見せていた。クォーテルは慌てた風もなく尋ねる。「結界を抜いてくるとは……大魔導か」「お初にお目にかかる」 名乗る必要はなかろうと、カヤリは判断した。大魔導と理解されていればそれで十分だった。「一...
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DC-17-05:宣告は為され……。

 ファイラスは剣に手を掛けていた。だが、グラヴァードには全く動じる様子がない。ファイラスを脅威とは認識していないからだ。「言い訳?」 グラヴァードはゆっくりと首を振った。「無用だ、そんなものは」「なんだと」「十万を救うために犠牲になった千人...
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DC-17-04:生命の天秤

 待ってください――ケーナが前に出た。「イレム様、ファイラス様、下がってください。彼の狙いは私です」「しかし、ケーナちゃん」「お願いします、離れてください」 ケーナの有無を言わせぬ言葉に、イレムは頷いた。そしてファイラスを引き摺るようにして...
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DC-17-03:虐殺者の出現

 その静かな問いかけに、ケーナはしばらく答えようとしなかった。ただじっとイレムを見て、まるで彫像のように固まっていた。「ケーナ?」  事情を知らないファイラスが怪訝な声を発すると、ケーナはようやくファイラスに顔を向けた。凍てついた石像のよう...
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DC-17-02:鞘

 イレムは素早く周囲を確認する。周囲では兵士や神殿騎士たちがそれぞれの仕事に駆け回っていたが、誰もイレムたちの会話に注意を払ってはいない。イレムは燃え盛る炎が爆ぜる音に隠すように声を潜め、言う。「妖剣テラはアイレスのゼネス聖神殿にあった。つ...
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DC-17-01:幽かに燃えるもの

 幸いにしてファイラスとケーナは、カヤリの魔法の範囲にはいなかった。だが、|彼我《ひが》の軍勢の混乱状態があまりにもひどく、イレムの元へ合流するのに相当に手間取ってしまった。「イレム! 大丈夫か! 敵の総大将は!?」「あいつ、強ぇわ」 ケー...
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DC-16-02:灼熱の絵図

 間違いないな――イレムは確信する。先程までの攻撃魔法の威力と精度、そしてこの剣さばき。そして現在のディケンズ辺境伯領を巡るアイレス魔導皇国の立ち位置。それらを総合すると、この目の前の男は、|神帝師団《アイディー》と並び「最強」と称される、...
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