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治癒師と魔剣・本文

DC-01-01:沈黙する屍たち

 小高い丘の麓には、無数の屍が転がっていた。どれも激しく傷ついており、夏の陽気に|炙《あぶ》られて腐敗もひどく進んでいた。残ったわずかばかりの下草はどす黒く|萎《しな》びており、死体を好むキノコがぶつぶつと身を|掲《かか》げていた。 うっす...
治癒師と魔剣・本文

DC-00-00:滅んだ世界の欠片より

 白髪、そして青い瞳の青年が、バルコニーで星空を見上げている。八月だというのに酷く冷たい夜風が、青年の髪を仄かに揺らしていく。「滅んだ世界の|欠片《カケラ》、か」 青年は月に視線を送り、今度は黒々と広がる南の山脈を見た。あの山の向こうでは今...
ロストサイクル・本文

LC-99-999:エピローグ

 二〇一九年四月。 僕らは晴れてH大学の大学生となった。 何事もなかったかのように。 だけど、そう――僕らの記憶は完全には消えなかった。 あの夜の記憶は、《《写真のように》》僕らの頭に焼き付いている。僕とルリカは互いのその脳内写真が、僕らそ...
ロストサイクル・本文

LC-06-002:バレットストーム

 真っ先に爆炎を上げたのは96式装輪装甲車だった。分厚い装甲を持つはずの車両が、まるで紙を引き裂くように破壊された。その爆風に飲まれ、タケコさんも宝生も大きく吹き飛ばされた。タケコさんは愛車のWRXのボディに人形のように撥ね上げられ、宝生は...
ロストサイクル・本文

LC-06-001:デュエリスト&インターセプタ

 タケコさんの強さは鬼神のようだった。十名を超える敵を前に、一歩も退かないどころか、圧倒していた。剣道四段とかそういうのでは到底計り知れない、圧倒的な実戦経験……だろうか。ともかくその動きはあまりにも洗練されていてハリウッドのアクション映画...
ロストサイクル・本文

LC-05-005:未来と運命と

 僕らの行く先に一つの影があった。「還屋……」 僕はそのツインテールの姿をすぐにそうだと同定する。この場に現れ得る人物といえば、さっきの白衣の男と、この還屋未来以外にはないと思っていた。「ようこそ、宇宙の|狭間《はざま》へ」「宇宙の狭間?」...
ロストサイクル・本文

LC-05-004:開示

 潜伏期間というのはな――男は律義に説明を始めた。「C的存在のネットワークに組み込まれるための準備期間。つまり、記憶の主体をこの世界の物から俺たちの概念へと組み替えるための並行運用期間のようなものだ」「やっぱり支配体制を変えるってことじゃな...
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LC-05-003:美味兎屋

 |美味兎屋《みみとや》ってどういう意味なんだろう。 男の後ろをついて玄関に入り、靴を脱がぬままに中に入っていく。そこは外観からは想像もつかない程に広く、長い廊下を歩く必要があった。内装はシンプルだったが、金色の間接照明が絶妙にアンニュイな...
ロストサイクル・本文

LC-05-002:可能な限り完璧なる立方体

 僕は走った。涙が出るほど肩が痛んだが、それでも。 僕を追ってきたのは二人。どんな服装かまで見る余裕はなかったけど、とにかく黒い服を着ていた。その手には鉄パイプのような棒がある。銃でないのは幸いだったが、持っていないとも限らない。 タケコさ...
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LC-05-001:待ち伏せ

 六月に入った頃になってようやく、僕は退院した。六月四日――久しぶりの学校である。その間、タケコさんも夏山ルリカも、もちろん母さんも見舞いに来てくれた。僕の傷は思いのほか重傷だったようで、一歩間違えば死んでいてもおかしくはなかったのだそうだ...
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