小説

大魔導と闇の子・本文

WA-03-04:殺戮

 土砂降りのさなか、キルバー中佐はややうんざりとした表情で、馬から降りることもなく剣を抜いた。不穏な動きを見せたら斬り捨てるぞという意思表示であったが、当のハインツは全く動じる様子もない。それどころかヴィーに対してうなずきかけた。「……承知...
大魔導と闇の子・本文

WA-03-03:僕たちには択ぶことしか、できない

 エクタ・プラムに|魔狼剣士団《フォールディラス》が派遣される数日前――。 グラヴァードは愛剣の手入れをしながら、部下である人形師トバースの報告を聞いていた。エクタ・プラムに国家騎士が派遣されるに至った顛末をである。 エクタ・プラム実験都市...
大魔導と闇の子・本文

WA-03-02:繋がれた者

 それからは毎日のようにカヤリに対する《《接続実験》》が行われた。最初の数日こそ、カヤリは頑迷に抵抗したのだが、すぐにそれは弱々しいものになり、やがては自ら進んで椅子に座るようになってしまった。 その表情は虚ろで、すっかり水色に変じてしまっ...
大魔導と闇の子・本文

WA-03-01:接続実験

 翌朝早く、寝ぼけ|眼《まなこ》のカヤリは小さな部屋に連れてこられた。部屋の入口で立ち止まったヴィーの表情は、カヤリが恐怖を覚えるほどに険しかった。 部屋の中央には大きな灰色の椅子が一脚置かれていた。そしてその他には一切何もない、ただの白い...
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WA-02-06:過去を見れば袋小路

 だだっ広く人影もまばらな実験場の片隅にて行われたヴィーによる特訓は、一言で言って《《苛烈》》だった。 もともと短気な性分のヴィーは、「カヤリができるようになるまで待ってやる」という発想は持ち合わせていない。ひたすらに理論を積み上げ、実践を...
大魔導と闇の子・本文

WA-02-05:一夜明けて

 目を覚ますと、窓のないその部屋は、すでに明るくなっていた。魔法の照明によって、明るさが自動的に調節された結果、この部屋は明るい――そのことを思い出すためには数秒の時間が必要だった。あまり眠った実感はないし、そもそも朝なのかも判然としなかっ...
大魔導と闇の子・本文

WA-02-04:防波堤

 二人は洗い場で入念に髪や身体を洗った後、大きな湯船に勢いよく突入した。カヤリはまだ場所慣れしてはいなかったが、見たこともない大きさの湯船に少なからず興奮していた。「あったまるねぇ」 ヴィーがカヤリを後ろから抱きながら息を吐く。抱きすくめら...
大魔導と闇の子・本文

WA-02-03:前を向く力にならない過去になんて、何の価値もないんだよ

 動く通路の先にあったのは、巨大すぎる空間だった。イーラの村の集会場なら十や二十が余裕で収まる広さがあり、天井も恐ろしく高かった。多くの人々が、難しい会話をしながら忙しく行き交うその白い空間は、灯りもないのに明るかった。ただ、恐ろしく無機的...
大魔導と闇の子・本文

WA-02-02:暗中のダイアログ

 自動的に開く扉を抜けて建物に踏み入ると、カヤリたちの背後で扉が閉まった。途端に外の賑やかだった灯りが消え失せ、全くの闇に染まる。なのに自分の手や隣にいるヴィーの姿だけはやけにはっきりと見える、カヤリにとっては極めて不可解な闇だった。床も壁...
大魔導と闇の子・本文

WA-02-01:ヴィーとカヤリ

 男はハインツと名乗った。だが、カヤリにはそれ以外は何も伝えようとしなかった。カヤリが魔法で連れてこられた都市は「エクタ・プラム」という名前だった。イーラ村とは何もかもが違っていて、カヤリは|眩暈《めまい》を起こしたほどだった。 極寒の雪景...
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