「魔女のオラトリオ」関連短編――。いくつかの時代を経て、再び目を覚ました私は、仄暗い場所に安置されていた。さながら高貴な身分の者の遺体のように。私の意識が何かで遮断されている。……魔法か。そう察知するのにそれほど時間はかからなかった。そして私が今こうして目を覚ましたということは、新たな持ち主が現れるということに違いない――私は本能のようなもので、そう知っていた。
濃厚な血の香り。嗅ぎ慣れすぎたはずのその香りは、しかし今までとは明らかに違っていた。意識の目を凝らした私の前に現れたのは、美しい少女だった。数多くの人間を見てきた私だが、その中でも群を抜いて整った面立ちの少女だ。豪華なドレスとその立ち居振る舞いによって、彼女が高貴な身分であることはすぐに分かった。そして同時に、恐ろしい魔女であるということも。私が今まで見てきた、いかなる魔女とも異質である。彼女の力は、これまで見てきた数多くの力ある魔女たちをも確実に凌駕する。剣である私が、明確に恐れ慄くほどのその力。純粋に恐ろしいと感じた。恐ろしい――呪いの剣である私がそう感じたのだ。
少女は両手を広げ、歌うように言った。
さぁ、目を覚ましなさい、ガルンシュバーグ。幾千幾万の命を啜りし呪詛の剣。持ち主全ての血脈を根絶やしにしてきた呪怨の剣。あなたは私と出逢うために創られた。おめでとう、ガルンシュバーグ。幾星霜の時を経て、あなたは目的を達したのよ！ だから今度は私の番。私の願いを叶えなさい。
何を言っているのだ、この少女は。私は戸惑う。私の願いはお前と出逢うことなどではない。私の願いは、ただ永久に器物として眠ることだ。永遠に続く悪夢を見ながら。私の声は届くのか、否か。それは私にはわからない。しかし少女は、これ以上ないほど完璧に口角を上げた。笑ったのか。そしてその表情のまま、少女はいっそ厳かに言った。
全ての魔女の頂に立つ私のためにその力を使う名誉。至高の生命体たる私に仕えることのできる名誉。私はそれをあなたに与えましょう。ゆえにあなたは世界で、そして歴史上最も誉れ高い剣となる。私をさらなる高みへと導く剣。あなたは私が生命の枠組みを超えるための鍵。私の中に生きる悪魔の力、そしてお前の中に眠る生命の力。そして私という至高の意識。それらが合わさった時、世界は一つ歩みを進め、世界は名実ともに私のためのものと為る。歓びなさい、この時を。享受しなさい、この愉悦を。耽溺するといいわ。ありとあらゆる生命を支配する快楽に。
少女は私を取り巻いていた封印の魔法をいとも容易く消し去った。そして私を手に取った。王都にいた人間すべてを葬り去ったあの時の数十倍、いや、数百、数千倍におよぶ罪と苦痛が流れ込んでくる。この少女は、もうすでに何千、あるいは何万もの命を奪ってきたというのだろうか。その怨念、怨嗟、憎悪、苦痛、恐怖……それら全てを少女は喰って生きていたとでもいうのか。罪の意識の一つもなく――。
悍ましい魔女だった。呪いの剣たる私をして、そう思わずにいられなかった。
しかし彼女がどうであれ、そもそも、私には拒否権などなかった。主が現れ、私が力を振るい、死が訪れる。それだけだ。私にふさわしい持ち主か否か。私にできるのはその判断だけだった。
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