DC-18-04:再戦

治癒師と魔剣・本文

 エリシェルの赤黒く輝く剣は、イレムの白銀の刃を的確になす。だが、エリシェルの攻撃もまた、イレムには通じない。純粋な戦闘技術という点では、二人は全くの互角だった。常人の目では、その手さばき足さばきを追うこともできない。そのうえ、合間に差し込まれる攻撃魔法や殲撃は、どれも一撃必殺の破壊力を有しているのは明白だった。

「仮に私を倒せたとしても、この剣は失われることはない」

 鍔迫り合いの合間に、エリシェルが言う。イレムは鼻で笑う。

「わかってるよ、んなこたぁ」

 妖剣テラと魔剣ウル。それらは元来、人の手の届くところにあるべきものではない。海の底なり、火山の火口なり、とにかく人の手の届かないところに捨てておくべきだった。だが、龍の英雄はそうしなかった。人の触れられる場所に存置しておいたような――この時、イレムもエリシェルも同じことを考えていた。

「ところで妖剣使い。その剣は、いったいどうやって手に入れたんだ」
「どうやって?」

 エリシェルの注意が一瞬れる。その隙を逃さず、イレムは殲撃を打ち込んだ。エリシェルは咄嗟に魔法の盾を出現させて直撃を不正だが、石橋の縁ギリギリにまで後退させられた。

「この剣、テラは……」

 エリシェルは記憶を探る。

 いつから……?

 誰から……?

 どうやって……?

 エリシェルは混乱している。

「この剣は皇帝陛下より賜ったものだ……!」 

 エリシェルは言ったが、その言葉に誰よりも懐疑的だったのも、またエリシェルだ。

「そんなことだろうと思ったぜ」 

 イレムが目の前に現れ、その重量大剣をエリシェルに打ち落ろす。妖剣によって直撃は防いだが、剣の生み出す圧力までは殺しきれなかった。右肩の装甲がひび割れ、弾け飛ぶ。

「その剣に魅入られたんだ、お前はな!」
「それが、それが何だと言う!」

 エリシェルの反撃がイレムを襲う。

 騎士の矜持きょうじ、国家への忠誠。それがエリシェルの全てだ。どんな任務であろうと必ず遂行する。それこそが国家騎士の、銀の刃連帯ガーナルステッドの務めであると、エリシェルは信じていた。

「お前は最初から、魔神ウルテラを復活させるための道具にされてたんだよ!」
「なれば、本懐である!」

 どん、と、空間が悲鳴を上げた。イレムの鎧から煙が上がり、真紅のマントが千々に弾ける。イレムの周囲の石畳は赤熱して音を立てていた。

「騎士は国家の犬じゃねぇぞ。是は是、非は非。俺たちは無制御、超騎士だろう。お前の態度は、力ある者の責任から逃げてるだけにしか見えねぇ!」
「力ある者であるならばなお、自我を捨てて忠義のもとに生きるべきだ!」

 二人の主張はまったく相容れない。イレムは言い募る。

「いいか、妖剣使い。ウルテラが蘇ったら、どれだけ人死ひとじにが出ると思っている! とがなき人間も大勢死ぬんだぞ」
「承知の上」
「なぜだ。お前は無辜の人々を殺すことに一片の良心の呵責も感じないのか! アイレスに帰っておとなしくしてろ!」
「出来ぬ相談だ! 私は皇帝陛下よりこの任務を与えられた。魔剣ウルを回収するというな。なればそれを遂行するのみ。誰が幾ら死ぬことになろうが、任務のためならば致し方ない!」
「てめぇの頭の中は妖剣に支配されつつある。わからないか!」
「それもまた私の意志!」

 エリシェルの姿がき消えた。イレムはその直後に短距離転移を決め、エリシェルの殲撃を回避する。イレムは振り返りざまにエリシェルの首を狙ったが、そこにはエリシェルはいなかった。

「しまった!」

 疲労で判断力が落ちたか!

 イレムは地面を蹴ると同時に転移を実行する。だが、それはエリシェルの予測どおりのリアクションだった。エリシェルの背後に出現したイレムは、その直後に右膝を光の槍で貫かれていた。

「ぐっ……!?」

 たまらず膝をついたイレムを振り返り、エリシェルは無表情に妖剣テラを振り上げた。

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