「魔女のオラトリオ」関連短編――。
次に私が目覚めたのは、その王国が滅び、次の王国も異民族に侵略されて滅んだ後だった。人の血生臭い営みが、私を目覚めさせるらしい。異民族の王は厳重に封印を施された私を見つけるなり、滅ぼした王国の重鎮たちを使って試し切りをした。勿論、部下たちには見世物として、王国民たちには見せしめとして。いつの時代も、民衆というものは自分以外の血が流れるのを何よりの娯楽とした。自分に関わりのない者たちの悲鳴を聞くことで恍惚となった。誰かの命が無駄に消されていくことで快楽を得た。
かくして私の刃によって両腕両足を切断された王と王妃は、私の呪いの力を受けて死ぬことすらできず、槍に串刺しにされた状態のまま三日三晩放置された。カラスや虫に食い荒らされてもなお、死ぬことも出来ずにいた王と王妃。王と王妃の政治はつつましく王国は豊かだった。にもかかわらず、その繁栄を享受していた民衆は彼らに罵詈讒謗を浴びせかけ、あまつさえ石や刃物さえ投げつけた。もはや泣き叫ぶことすらできなくなった二人は、しかし、通りかかった魔女の一人によって葬られた。
それを知った異民族の王は激怒し、魔女を捕えた。が、魔女は私を指して涼しい顔で言ったのだ。この剣を私に寄越せと。さもなくばこの剣の呪いは、お前の民の全てを未来永劫呪い続けるだろう、と。ところが異民族の王は聞く耳を持たず、一切の躊躇もなくその魔女の首を刎ねた。鮮やかに私を一振りして。
ごとりと転がった魔女の首から、哄笑が響く。魔女は言った――せっかく運命に抗う機会をくれてやったのに、と。魔女の身体と頭が赤黒い霧と化し、略奪され尽くした城下の街を覆う。王国の民の死と苦しみに満ちた街。異民族の狂気と傲慢に満ちた街。それらありとあらゆる負の感情を凝縮したその街は、汚れた血の色に染め上げられ、やがて、燃えた。赫々たる焔に彩られたその王都には、非業の死を遂げた王と王妃の怨念が渦巻いていた。その力は私の中に流れ込み、私はますます鋭くなった。
そして異民族の王族はその劫火に灼かれた。誰一人として生き延びることはできなかった。王都から脱出できた数少ない者たちは、故も知らぬ山賊の餌食となった。遠く離れた彼らの故郷は、時を同じくして生じた疫病に因って滅んだ。私はそれらの災厄の中心にいたし、おそらくは私こそがその元凶だったのだが、気が付けば私を知るものは誰もいなくなってしまった。私は鞘に収められたまま、また幾つかの時代を眠ることにした。多くの死と呪いが生まれる時代になれば、私はまた目を覚ますだろう。
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