「魔女のオラトリオ」関連短編――。
今となっては遠い昔。思い出そうとするだけでも意識が眩む。それほどに遠い昔。
私はある鍛冶師によって生み出された。この世で最も硬い金属、白銀鋼と呼ばれる特殊な鉱石で作られた私は、鍛造の頃より強い魔力に晒されていた。魔法使い、いや、魔女と呼ばれる者たちによって、力を与えられ続けていた。その結果として、私はまだこの剣の形になる以前から、このようにして確固たる意思と認識力を持つことになった。
鍛冶師は形になった私を、貴重な砥石で研いだ。並の砥石では白銀鋼である私を研ぐことはできなかったからだ。その砥石は空から落ちてきたという赤隕鉄から、鍛冶師が自ら作り上げた。その砥石によって仕上げられた私は、ありえないほどの精巧な刀身と、鋭すぎる刃を持つに至った。剣先から柄頭に至るまで漲る甚大な魔力。奇跡の一振りと言っても良い――私は自身を認識てそう思った。この鍛冶師は当時の王国に於いて、最高の腕前を持つという評判だった。
鍛冶師は魔女の家系で生まれた。女性のみならず一族の男性の多くも魔女――後に男の魔女は導士と呼ばれるようになるが――であり、その中にあってこの鍛冶師だけが魔法の力を持たなかった。哀れなほど、この男には魔法の素質がなかった。だが、その剣を作り上げる技能には、数多くの職人たちが「天才」との賛辞を惜しまなかった。まるでそれまでの迫害を帳消しにしようとするかのように。
私は「剣」だ。剣には二つの役割がある。一つは直接的に人を殺すこと。もう一つは持ち主の権力を誇示し、それにより人を殺させること。しかし、いずれにおいても、つまり――私は殺人の道具だ。そんな事は生まれた瞬間から理解していたが。
私が最初に殺したのは、鍛冶師の両親だった。そして祖父母、兄弟、妻、自らの赤子たち。私を手にしていたのは当の鍛冶師だった。彼は言う。あらゆる怨讐を晴らし、また、愛する者の血を吸うことでお前は完成する――と。そして私は魔女たちの血をふんだんに吸い込み、その力を取り込むことで、鍛冶師の言ったとおりに完成した。赤子を手にかけた時の鍛冶師の苦しみは、私にも直接流れ込んできた。その感情は私には理解のできるものではなかったのだが。
鍛冶師はその後、捕えに来た王国の兵士たちによって殺された。私を振るい、兵士数十名を道連れにした鍛冶師は捕えられた。鍛冶師は即日処刑されたが、その際には私が用いられた。「試し切り」と称して、鍛冶師の身体を滅多切りにしたのだ。
とどめも刺されず、血に染まった石床に転がされた鍛冶師は、最期に声もなく笑った。これでお前は完成した――と。
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